星との出会い①
「――っごっ、ホ! ガハッ!」
激しい咳き込みを伴い、俺は覚醒した。
意識を取り戻すと同時に、飲み込んでいた海水を盛大に吐き出す。
呼吸を落ち着けてからゆっくりと瞼を開いた。夕焼けに赤く染まる空が見える。穏やかな波打ちの音も聞こえてきた。ベロニカの港辺りに仰向けで転がっているらしい。
「ああ、マスター。ご無事で良かった……!」
「ディアナ……」
未だに鈍痛を引きずる頭のせいか、視界がぼんやりとして定まらなかったが、傍らの銀白の少女が俺の顔を覗き込んできたことはわかった。
そして驚いた。ディアナが漏らした、常の冷静沈着な口調とは違う、安堵と恐怖を織り交ぜた震えた声音に。いつものクールな学級委員長風の、凛とした表情ではない、瞳に涙を溜めた、今にも泣き出しそうな表情に。
そこでようやく、俺はディアナに多大な心労をかけてしまったのだと思い知る。
王様の言葉に勝手に激昂して、問答無用で彼女を連れて突っ走って、一人で右往左往して、落ち込んで……挙句、道連れに死にそうになったのだから、振り回される方はたまったものではない。
そういう意味で、ディアナにはとんでもない不安とストレスを与えてしまった。つい先日、気に障るような、傷つくような発言は控えようと思ったばかりだっていうのにこの有様だ。
重い身体を持ち上げる。彼女に謝罪せねば。自分の独りよがりで共倒れてしまいそうになったことを。
そう思い、正座姿の相棒に向き直ったとき。
「マスター。今からする行為をお許しください」
「え?」
パン! と、耳元で小気味よい音が弾け、視界が右に逸れた。じわりと左の頬が痛みを訴えてくる。
ディアナに頬をはたかれたのだ。
「ほ、本当に自覚しておいでですか……? あと一歩間違えれば、命を落としていたのかもしれないのですよ!?」
「……わかってるよ。ディアナを巻き込みそうになったこと、本当にすまないと」
「違います! マスターが、貴方様が、死の瀬戸際にあったことを言っているのです!」
そう言い放つディアナの姿を見て、俺は一つの事実に思い至る。
……荒天の海に落ち、意識を失った俺は、どうやって生還できたのか?
決まっている。眼前の少女が、涙を滲ませながら叱責するこの娘が、俺を救ったのだ。
俺より二回り以上も小さい身体で、海水を吸って重くなった男子高校生を担いで、ここまで運んでくれたのだ。以前聞いていた、限定魔装形態を使ったのだろう。




