異世界特有のご都合環境⑬
『……っ、いけません、マスター! 先ほどから心素の循環効率が下がり続けています! 循環効率六〇、五〇……これ以上は、マスターの精神が保ちません!』
なん、だよ、それ……
精神的疲労が、溜まってるってことか?
確かに、いつの間にか頭はガンガンと鐘を衝くような痛みが響いてるし、身体は嫌に重い。気を抜いたら倒れ込んで気絶でもしそうな感覚だ。
……無理なのか?
「くっ、そ……!」
まだ満足に開通してもいない嵐の穴に向かい、ヤケクソじみた突貫をかける。
『! ダメですマスター!』
再度かけられたディアナの制止の声は、俺にはもう聞こえていなかった。
決死の闇夜神路連射が作り出した嵐の中の道筋は、思っていたよりも遥かに手前で途切れてしまっていた。
一秒もたたない内に空白の果てに辿り着くも、その向こうにあるべき特異点の島は影も形も見えない。ただただ、真っ黒な暴風雨が、道も、視界も遮って立ちふさがるのみだ。
目に見えない向こう側へ手を伸ばそうとしたとき、怒涛の嵐が身体を飲み込んだ。
二度目に強襲してきた暴風雨は、弄ぶかのように四方八方振り回した一度目とは異なり、俺を海面へと向かって叩き落すように一方から攻め立ててきた。
今となっては抵抗する気も起きなかった俺の身体は、滝を落ちる枯葉の如く、猛烈な勢いで押し流されていく。
波の高い水面が近付いてくる。荒天下の海面は人一人は優に越えるほどに高く波打っている。嵐の外では海も穏やかだったことをぼんやりと思い出した。
『マスター! マスター、しっかりしてください!』
そのときようやく、相棒が絶え間なく声をかけてくれていたことに気付いた。
しかし、俺がその声に応じる間もなく、荒れ狂う波が全身を包み込む。上空の暴風雨に勝るとも劣らない勢いの高潮に抗う術も、気力も無かった。
『マス――』
先ほどから痛みを増す頭痛のせいだろうか、俺を呼び続けるディアナの声がひどく遠い。少しづつ遠ざかっているようにさえ感じる。
その様子をいつしかルナちゃんに重ねていた俺は、ゆっくりと意識を手放した。




