星を駆ける⑬
「フン。私としては、大いに否定してくれて構わんがな。エーテルリンクの人間でもない小僧が神位を超えた神だなどと……悪い冗談だ」
「あんた、俺の事嫌いすぎだろ」
「ふふー。ほーら、私の言った通りー、面白いコだったじゃないですかぁー」
不服そうに鼻を鳴らす女王とは対照的に、ダリアさんは妙に俺を持ち上げてくるな……何もしてないと思うんだけど、この人に。
翡翠色の猫耳をピコピコと揺らす彼女は、ダルダルの袖に隠れた手で、前の席のリラの頬をもちもちと弄っている。リラもそれを自然に受け入れている。え、君ら仲いいの? なんで? いつの間に?
首を傾げる俺に向かって、彫刻の如き美麗な横顔の少年が声をかけてくる。
「心配しなくても、君に神としての責任や義務を強要するつもりはないよ。天空神アーツもこうして戻ってきたし……地母神の後継も、一応いるからね」
「……よろしく、お願いします」
サンファのことを言っているんだ。
どうやら、地母神の後釜に落ち着くあのクソイケメン魔術師のことは、アーツ、スプリングロードゥナ、そしてエアリベルの三人が管理監視していくらしい。俺が言うのも妙な気がするが……世話になるようだし、お願いの言葉はあるべき、だよな。
「そういえばユーハ殿。このライブが終わった後に時間はございますかな?」
「え……なんですか?」
「ベロニカの面々が救世の礼を申したいとうるさくてのぅ……良ければ顔を出してやってほしいんですじゃ」
「勘弁してくださいよ!!」
のんびりとしたマイペースなベロニカ王の言葉に、思わず頷いてしまいそうになった。
「おお、さっそく英雄としての活動か」じゃねーよスプリングロードゥナ! 返上したいんですけどねその称号! 可能なんだったら!!
余談だが、ベロニカ王はこの二か月の間で特異点管理国間の整備が為された、新幹線なる乗り物でこのマリーネに駆け付けたのだそうだ。まだ車両に改良の余地があり、乗員数の増加が今後の課題なのだそうだが……
なんだよ新幹線って。いつの間にんなもん整備してんの異世界。
スプリングロードゥナの指導の下、彼女が治めるガランゾの職人らの手によるものらしい。地球の新幹線だって、そんな短期間で車両の製造から線路の敷設まで済むもんじゃねーぞ。オリジナルを超えてくるなよな、異世界。
っていうか、英雄て。何その不本意な称号。心の底からいらないんだけど。
スプリングロードゥナも言っていたが、俺は別に世界を救うためだとか、巨悪が許せないとか、そんな心持ちで戦ったわけじゃない。あくまで俺の目的はただ一つ……いや、二つや三つくらいに増えたり変わったりもしたけどさ。
「お、いよいよ始まりますぞ!!」
そんなことを考える俺の隣で、ベインさんが声を張り上げた。
気付けば会場内の電灯が落ち、周囲は薄闇に包まれている。
そんな中、唯一光に溢れるステージ。
目の前に燦然と煌めく舞台に、三人の輝きが姿を現す――




