星を駆ける⑦
日々の激務から解放されたが故か、三人のドルオタの表情は楽しそうだ。まあ、気持ちはよく分かる。俺だって混ざりたいもんあの会話に。
しかし、そうすると誰を推すべきか悩ましいところだ。
無論、マイフェイバリットオンリーワンアイドルはルナちゃんで間違いないのはその通りだ。
しかし、この一連の事件で……エーテルリンクを旅し、様々な障害を退けた結果、俺の中の認識が少しだけ変わりつつある。
それはまあ、もうとっくに自覚していることではあるんだけどな。
このまま混ざったら少し、あの場をかき乱すようなことになる気もする。
……いつの間にかリラも参戦している。アイリス推し勢のようだ。
味方を一人得たハーシュノイズがにわかに活気付き、その場の弁論がアイリス優勢になっている。
そんな様子を見ながら、俺は傍らの男性霊に呼びかけた。
「お前はどう思う? サンファ」
『……誰でもいいんじゃないのかい。僕には関係の無い話だね』
俺の隣、やや上方でふよふよと浮かぶクソイケメン。
それは、俺をこの世界に召喚した全ての元凶……心魂奏者と呼ばれる異世界の神位魔術師、サンファ。
の、霊だった。
「そんなこと言いながら、二ヶ月もあったんだし、一人くらい推しが出来てるだろお前も」
『出来てないって言ってるだろ分からず屋! ……前々から思ってたけど、君さあ、頭どうかしちゃってるんじゃないのかい!? 僕は君を殺そうとしたんだよ!? そんなに気軽に話しかけるような相手じゃないだろうが!』
「いやまあ」
んなことは、改めて言われなくても分かってるけど。
でも、な。
「よろしくって言われちゃったし」
『……っ!』
あの時……最後に創星神にソウルドライブを放ち、消滅する寸前の、フィリオール先生だった頃の女性神の意識と会話した時。
彼女は、最期に俺にプレゼントを贈るといった。そして何かを叩きつけてきた。
それはどうやら、精神世界のみならず、現実の俺の身体にも同時に起こっていたことだったのだが……その時に叩きつけられたのが、あの純白の鍵だったのだ。
事の次第を把握したアーツからの説明によると、創星神が世界の鍵と呼んでいたあの白鍵は、サンファの肉体と炎闘神の魂、そしてかつて地母神だった創星神の莫大な魔素と、天空神たるアーツの魔素波形から出来ており、つまりは、サンファの意識……魂は、構成物質として不要なもので、白鍵の内部で隔離保存することが出来ていた、ということらしいのだ。
話を聞いた俺たちは、フィリオール先生が託したものがクソイケメン魔術師のことであると悟り、白鍵へ宵鍵桜扉を行使して……見事、こいつの魂を抽出することに成功した、というわけだ。




