星を駆ける⑥
……無限回廊の如く続いた書類の山から解放された、数日後の朝。
俺は、再び彼の異世界の地に立っていた。
かつて無情にも呼び出され、強制的に役目に従事させられた世界。
それと同時に、かけがえのない相棒と、仲間たちと出会えた世界。
エーテルリンクに。
今いるのは、召喚されたトレイユから最も遠く離れた特異点管理国、マリーネに開設されたライブステージの舞台裏である。
そう! 今日は記念すべき日だ! 歴史に残る日、いや、残さなければならない日!
ルナちゃんという究極のアイドルに、ディアナ・アイリスという期待の超新星を加えたアイドルユニット『空に輝け』。
その、エーテルリンク全国ツアーライブの開催日なのである!!!
これはもう……この日を国の祝日に指定するしか無いな。今後回る予定の特異点管理国三国全てがそうすべきだ。うんうん。
ライブ開始まではまだ若干の時間がある。俺も一応、彼女たちのトレーナーもどき――この二ヶ月のプロダクション業務の中、プロデューサー見習いとしての教育を受けてもいる――なので、今は舞台裏で運営の手伝いや指示をしているのだが。
ふと、離れたところにいる、アイドル衣装に身を包んだ三人の少女の方を見る。
青を基調に、銀白の長髪を豪奢かつ美麗に結い上げたディアナ。
黄色を基調に、やや露出が多く全身の躍動感を前面に押し出せる衣装のアイリス。
そして、ピンクを基調に、『これぞアイドル』と誰もが見て分かる完成度の魅力を放つ、ルナちゃん。
三人が、舞台袖で最後の打合せをしている。
そこには時折、俺と同じく、スタッフとして尽力してくれているグゥイさんやベイン氏。それと、激励のつもりか、トレイユの女王やダリア、さん? が声をかける姿も見られる。
三人の横顔には、程よい緊張感が浮かんでいるのが分かる。パフォーマンスに影響するような極度のものではない。むしろ、適度な気の引き締めで、微塵の隙も無いライブを魅せられる、そんなポジティブな空気が伝わってくる。
そんな彼女たちの様子を見ていたのは俺だけじゃなかったようで、近くから、何人かの男性スタッフが話している声が聞こえてくる。
『――ハッ。やッぱよォ、ウチの後輩がいっちばんイケてんだよなァ!? 見ろよあのプロポーション! 他の二人も悪かねェが、後輩には今一歩劣っちまってんだよなァこいつが!』
「いやいやいや、瑠奈だってスタイルは良い方だぞ! まあ、確かにアイリスの方がメリハリはあるかもだが……経験やここぞというときの安定感は間違いない! いつだって最高の姿を見せてくれるってところは負けちゃいないぞ!」
「ふむ。とはいえ、ディアナ君の歌唱力の高さは見事としか言いようがあるまい。その方面を押し出していけば、ゆくゆくは歌手としてのデビューも夢じゃない」
あ、スタッフじゃないわ。
いやスタッフではあるか。
ノーパソ内のハーシュノイズと、赤上さんと、祭賀氏まで! 何やってんですかね!?
会話内容が完全にドルオタの推しアピールなんだよなあ!?
ライブ開始直前にやることじゃないと思うんですけど!




