表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

660/673

星を駆ける④






「あ~あぁ! やってくれちゃったよねえ篠崎クンってばさ! 私、これでも結構苦労したんですけどー。ものっすごい時間かけて準備してきたんですけどー。それをさー、なんかアイドルのためとかしょーもない理由で潰してくれちゃってさー」


「知るかよ……」


ナニコレ。ここどこ? あれ、俺今何してんの? とりあえず返事したけどさ。


だだっ広い真っ白な空間にいた。つい先ほどまでいた神界……宇宙空間の如き、暗くもどこか透明感のある闇の世界とは真逆の空間だ。


目の前には、見慣れた姿のアジアン風の容姿を持つ女性司書……フィリオール先生の姿があった。

先刻まで戦っていた金色の女神でも、その直前に神界で漂っていた丸眼鏡の女性でもない、俺の知る先生の姿。


その姿が、あまりにも普通だったから。俺の知る、世話になった先生の姿だったから、あっけなく返事をしてしまった。


けれど、彼女は今……


「なぁに? この場所のことが気になってるの? ここはキミの精神世界だよ」


「え。じゃあ、なんで……」


「私がいるのかって? キミが使ったソウルドライブのせいでしょ。馬鹿みたいな量の心素(エナ)使っちゃってさ、望んでも無いのに強制的に魂を接続させてくるんだもん。強引な男はモテないよ?」


「やかましいわっ」


その軽口も、不意に見せる仕草も、『フィリオール先生』のものとして俺の記憶の中にある姿と重なる。


「この格好なのも、私のイメージが、キミにとってこの姿だからでしょ。心配しなくても、こんなトコに長居する気は無いから。私の身体はとっくに消滅してるし、意識もじきに無くなるよ」


ほらね、とフィリオール先生が自身の足元を一瞥する。つられて俺も視線を向けると、彼女の右足が、その爪先辺りから灰のようにはらはらと崩れ落ち始めていた。


崩壊は加速度的に進行し、瞬く間にフィリオール先生の脚が崩れ去っていく。


「ああ、やっぱり時間ないね。だ・か・ら、その前に……キミに、最期のプレゼントだ♪」


「え? ――ぶっ!?」


崩壊する自身の身体を見ても、まるで動じる様子の無いフィリオール先生が、器用に片目を閉じて俺の方を指差す。次の瞬間、視界の外から唐突に表れた『何か』が、俺の顔面に激突した。


その勢いに押され、明らかにそこまでの威力は無かったはずなのに、俺の身体がその場から遥か後方に吹っ飛ばされる。ここが精神世界というのなら、この状況は俺のイメージでしかないはずなのだが、まるで、現実の俺の身体にも同じ現象が起きているかのような。


「あ、あと伝言。私の助手に、ゴメンね、って伝えといてくれる?」


視界の隅、一人白い空間に立ち尽くす女性の姿が、みるみるうちに遠ざかっていく。


「それと……その子(・・・)を、よろしくね」


その、母親のような優しい笑みを湛えたフィリオール先生の姿を最後に、俺の意識は再び暗転した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ