星を駆ける④
「あ~あぁ! やってくれちゃったよねえ篠崎クンってばさ! 私、これでも結構苦労したんですけどー。ものっすごい時間かけて準備してきたんですけどー。それをさー、なんかアイドルのためとかしょーもない理由で潰してくれちゃってさー」
「知るかよ……」
ナニコレ。ここどこ? あれ、俺今何してんの? とりあえず返事したけどさ。
だだっ広い真っ白な空間にいた。つい先ほどまでいた神界……宇宙空間の如き、暗くもどこか透明感のある闇の世界とは真逆の空間だ。
目の前には、見慣れた姿のアジアン風の容姿を持つ女性司書……フィリオール先生の姿があった。
先刻まで戦っていた金色の女神でも、その直前に神界で漂っていた丸眼鏡の女性でもない、俺の知る先生の姿。
その姿が、あまりにも普通だったから。俺の知る、世話になった先生の姿だったから、あっけなく返事をしてしまった。
けれど、彼女は今……
「なぁに? この場所のことが気になってるの? ここはキミの精神世界だよ」
「え。じゃあ、なんで……」
「私がいるのかって? キミが使ったソウルドライブのせいでしょ。馬鹿みたいな量の心素使っちゃってさ、望んでも無いのに強制的に魂を接続させてくるんだもん。強引な男はモテないよ?」
「やかましいわっ」
その軽口も、不意に見せる仕草も、『フィリオール先生』のものとして俺の記憶の中にある姿と重なる。
「この格好なのも、私のイメージが、キミにとってこの姿だからでしょ。心配しなくても、こんなトコに長居する気は無いから。私の身体はとっくに消滅してるし、意識もじきに無くなるよ」
ほらね、とフィリオール先生が自身の足元を一瞥する。つられて俺も視線を向けると、彼女の右足が、その爪先辺りから灰のようにはらはらと崩れ落ち始めていた。
崩壊は加速度的に進行し、瞬く間にフィリオール先生の脚が崩れ去っていく。
「ああ、やっぱり時間ないね。だ・か・ら、その前に……キミに、最期のプレゼントだ♪」
「え? ――ぶっ!?」
崩壊する自身の身体を見ても、まるで動じる様子の無いフィリオール先生が、器用に片目を閉じて俺の方を指差す。次の瞬間、視界の外から唐突に表れた『何か』が、俺の顔面に激突した。
その勢いに押され、明らかにそこまでの威力は無かったはずなのに、俺の身体がその場から遥か後方に吹っ飛ばされる。ここが精神世界というのなら、この状況は俺のイメージでしかないはずなのだが、まるで、現実の俺の身体にも同じ現象が起きているかのような。
「あ、あと伝言。私の助手に、ゴメンね、って伝えといてくれる?」
視界の隅、一人白い空間に立ち尽くす女性の姿が、みるみるうちに遠ざかっていく。
「それと……その子を、よろしくね」
その、母親のような優しい笑みを湛えたフィリオール先生の姿を最後に、俺の意識は再び暗転した。




