星を掛ける⑬
遥か彼方、宇宙空間の如き神界の果てにいる創星神の声が、途轍もない神威を漲らせて頭上で響き渡る。
「――我が名は創星神。地球と、今まさに地球を砕かんとするこの星とを統べる神、創星神エンデ。ニンゲンよ、その耳障りな旋律を止めよ。いや、私自らが止めてやろう……」
建物が、大地が、大気が震えだす。迫り来る惑星の圧力と、言葉に乗って降り注がれる神の威圧で、地球全体が震えている。
けれど。
三人のアイドルは、歌声を止めない。
ルナちゃん、アイリス、今や剣と化しているディアナでも、最後の曲を止めやしない。
小鳥の物語はラストスパート。再びサビに突入している。
もしかしたら、コメント欄の人たちは……ライブを見てくれている人たちは、今、世界の終わりを示す圧力の振動に、心が挫けそうになっているのかもしれない。
ほんの一瞬、そんな不安が胸に湧き上がった。
しかし、そんな暗い杞憂もすぐに払拭される。
それは何故か。簡単な話だ。
三人のアイドルを通して、みんなの気持ちが伝わってきているから。
みんな……ライブを見てくれている、世界中の同志のみんなが、今なおディアナたちを応援し続けてくれている。スターエイルを歌い出す直前の、奇跡を起こすと告げた三人のアイドルのことを、信じてくれている。
その気持ちが。アイドルを応援するみんなの意志が、俺たちの力になる。
『生命回路、五幻構造を形成。響心率、限界突破』
『……状態……響心久遠に移行……』
限界を超え、無限に繋がるみんなの心が、俺たち五人の元で重なる。
何ものにも負けない、揺るがない、俺たちの意思を表明するための心を作る。
「我が永劫の叡智の前に、疾く、悉く、消え果てよ! ニンゲン!!」
その脅威の心素を目の当たりにしたせいか、急に上ずった創星神の言葉が、一層の圧力を伴って浴びせかけられる。
頭上に振りかぶられた創星神の右手が、永劫の魔素と共に振り下ろされる――
「――世界崩壊!!!」
とうとう、惑星が本格的な落下を開始した。
ごく至近距離で召喚されたもう一つの青い惑星は、あっという間に月よりも近くなり、空の全てを惑星の表面で覆い尽くす。
……しかし、今の俺たちは膝を付くことはない。ほんの少し気後れすることだってない。
たとえ、何が相手であろうと。
神様でも、人間でも、どこの誰であろうと。
俺たちの意思を止めることは出来ない――!!
……夜剣を振り上げた瞬間だった。思考が、視界が、景色の全てが固まった。
いや、この感覚には覚えがある。かつて何度も体験した、極限状態に陥った時に訪れる思考の加速。
不思議なことに、俺は、迫り来る惑星に対峙している俺たち自身を、後方で俯瞰するように眺めていた。
その隣に、銀白の相棒の姿。
どちらからともなく顔を見合わせ、変なの、と笑い合う。
……右手を差し出す。
「いける、だろ? ディアナ」
ディアナが、ゆっくりと俺の右手を取る。
「はい、マスター。マスターの、御心のままに……いいえ、今は少し、違いますね」
言い切ろうとした少女が、笑顔を湛えたままかぶりを振って、己の発言を撤回する。
「マスターの、お一人の意思ではなく……私たちの、心のままに――!」
――その一言を最後に、再び意識が現実に引き戻される。
『……みなさま……ごしょうわ、くださいー……』
リラの言葉が脳内で反響する。
無限の繋がりを生んでいる世界中の心を胸の奥で感じながら、今まさに大気圏へ突入せんとする惑星へ向かって、振り上げた夜剣を振り下ろす――
「「「『『――五星・闇夜神路!!!!!』』」」」
それは、小鳥の物語を象徴する飛翔。
夜剣から舞い上がるは一筋の流れ星。
五つの頂点を持つ星。夜色の五芒星が、晴天を駆ける漆黒の箒星となって――落ち来る惑星に、衝突した。




