星を掛ける⑩
このユニット名を思いついたそもそもの理由、というかコンセプトは、言わずもがな二人のアイドルのシンボルイメージからだった。
ディアナは月。アイリスは太陽。
夜の世界と昼の世界を照らし、空で輝き続ける光の象徴。
そんなイメージから考えたユニット名だった。
その時の俺は、露とも思っていなかったけれど……もしかしたら心のどこかで、こうなることを期待していたのかもしれない。
月と太陽の二人に……星が加わることを。
作戦会議中、祭賀氏と赤上さんに話したユニット名。ディアナとアイリスの二人を表すものであった、その名前に、新たに、もう一人のアイドルが加わったのだ。
その経緯もまた、今目の前でディアナ達が視聴者へと語ってみせている。
幼いころに書き記した夢小説を公にされたような、そんなむずがゆさが胸の奥で渦巻くが、必死に事態を冷静に考えることで事なきを得た。
頭上を仰ぐ。数分前よりも、存在感もその質量も、ずっと増えている青い惑星の姿を見る。
開け放たれたままの桜の扉。その遥か向こうで金色に輝き続ける、女性神の姿を。
……いつの間に傍らに来ていたのか、必要最小限だけの欠片を扉に残し、普段の少女の姿に戻ったリラが、きゅ、と俺の左手を握り締めた。
「……マスター……」
「……ああ、分かってる。こっからだ」
その小さな手を握り返し、俺はリラと共に三人のアイドルへと再び視線を戻した。
打ち合わせていたベストの瞬間。俺とリラの出番が必要になる一瞬を見逃さないために。
視線の先では、MCも一区切り、といった様子の少女たちが、賑やかだった場の空気を、一瞬閉口することでふっと落ち着かせる。
『皆様……本日はご視聴頂き、誠にありがとうございました』
『次が、今日アタシたちの歌う最後の曲になります』
『……みんなにも、見えるかな? 今、私たちの頭の上に、とても大きな、星が降ってきているのが』
ルナちゃんが、ゆっくりと頭上を指差した。彼女の問いかけに、コメント欄が世界各国の言葉で肯定を示す。
『あの隕石は、惑星は、このままだと地球に落ちるかもしれない。本当は、今こうしてライブをしている場合じゃないのかもしれない』
『だけど……それでも、アタシたちは歌いますっ! みんなが不安に思う気持ちを、少しでも無くせるように! みんなを笑顔に出来るように!』
『そして、信じて下さい! きっと……きっと奇跡が起こって、私たち全員が、笑って迎えられる明日が来ると!』
まさに、現実逃避じゃないか。そう揶揄する、創星神の言葉が聞こえたような気がした。
いいや、と。いいえ、と。
胸中で、俺とアーツがその言葉を否定する。
現実逃避じゃない。迫り来る、死という名の恐怖から、目を背けるだけの行為じゃない。
俺たちがそれを証明してやる。
俺の、祈るような気持ちを込めた視線の向こうで、少女たちが言葉を続ける。
『私が。私たちが、その奇跡を起こしてみせます』
『だから、みんな……最後まで、アタシたちから目を離さないでね』
『聴いてください。私たちの、最後の曲――』
――スターエイル。




