星を掛ける⑧
『……いえす……マスター……――!』
俺の叫びに応えた桜髪の相棒が、再びその身を空間を超える扉へと変じさせる。
創星神の創り出した、神界と地球周辺の宇宙とを繋ぐ白い穴の手前。出現した桜の扉に向けて、俺たちは夜色の魔法陣を駆け抜ける。
「ハッ! 今更どこへ行こうっていうの? もうキミたちの未来は決まったも同然なのに! ああ! それとも、最期の時を、敬愛するアイドルと一緒に迎えようとしているワケ!?」
桜の扉に向けて走る俺たちの背中にそんな声が浴びせられる。
敵に背を向けて走り出した俺たちの様子が、敵前逃亡にでも見えたのだろうか。煽ってきたのが創星神でなければ、そう思っていたところだ。
今の彼女の言葉は……これまでの自分を否定する存在を、自身の攻撃に対抗する何かが現れることを、忌避したいがための精一杯の虚勢に、俺には聞こえた。
俺たちの接近に伴い、開け放たれた桜色の扉を潜り抜ける。
宇宙空間の如き漆黒の空間から、昼日中の日輪が輝く、青空の下の地球世界へと舞い戻る。
眼下に、創星神との戦いへの出立の場であった、シロカゼプロダクション事務所が居を構える雑居ビルの屋上が見えた。
「ディアナ!」
『はい、マスター!』
身の内の相棒と短く言葉を交わし、空中で身体を捻る。
「『心身気影!!』」
声を合わせたと同時、夜色の全身が二つのシルエットに分かたれ、その内の片方が、普段のディアナの姿を形成する。銀白の相棒がそのまま眼下へと落下していくのを見届けながら、もう片方の影――つまり俺は、ほんの少し神威を薄れさせた神装神衣状態のまま、祭賀氏や赤上さんのいる裏方方向へと爪先を向けた。
『皆さん、長らくお待たせいたしましたっ!』
『いよいよ、アタシたちのユニットメンバー、最後の一人の御登場だよー☆』
打合せていた通り、俺たちの帰還に合わせ、既にライブを披露していた二人が視聴者へと呼びかける。アイリスとルナちゃんが、弾けるような笑顔で三つ数えてカウントダウンした――その、直後。
――二人の間。カメラの画角に納まる位置に、一人の少女が降り立つ。
少女は、その銀色の長髪を風に靡かせ、陽光に煌めかせ、着地に曲げていた膝をゆっくりと伸ばし、立ち上がる。
陶器のような曇り無き白肌と銀色の髪の合間から、鮮烈な真紅の瞳が覗き、カメラを射抜く。
『……お初にお目にかかります、皆様。アイドルユニット、空に輝けの最後のメンバー。ディアナと申します』
浮世離れた美貌の微笑を湛えた少女が、その強烈な登場とはかけ離れた穏やかな声音で、そう告げた。




