星を掛ける⑥
今の創星神は、結果的にエーテルリンクの神の座を捨てた、と言っても間違いではないだろう。
そもそも神としての仕事のほとんどをアーツに押し付けており、更には管理者としての君臨さえせず、他世界である地球へ渡っているのだから。
しかし、神の座を捨ててはいても、その権能……エーテルリンクへの影響力・干渉力までもを捨て去ったわけではない。
二世界の神として昇華した彼女の、世界に対する影響力は、こうして、その両世界――二つの惑星を、互いの存在する銀河系をも跳び越えて対面させる程に強く根付いているのだ。
そして……直面する惑星が、エーテルリンクそのものであると分かった俺たちには……実に厳しい展開となる。
「キミたち二人が生き残るだけなら、そう難しくないだろう! エーテルリンクを破壊するか、はたまた二つの世界両方を見捨てて、異なる星系へ逃げおおせれば済む話だもの! でも、それじゃあ……私の意思を変えられないよねえ?」
創星神の歪んだ笑みが、吊り上がった口角が、更にその角度を険しくしていく。
そう、そうなのだ。その点において、俺たちは目を背けるわけにはいかない。
俺たちの勝利条件……目的は、創星神による世界の干渉・支配を辞めさせて、一切の後顧の憂いなく、ディアナ・アイリス・ルナちゃんのライブを開催させること。
そして、そのライブツアーの開催予定地は他ならぬ、エーテルリンクだ。
創星神が、そのことまでもを知ったうえで、この展開を作り上げたのかは分からない。
しかし、たとえライブ開催地ではなかったとしても、あの世界には俺たちの関わった人たちがたくさんいる。そして、俺の同志――三人のアイドルの同志になった人たちもいるのだ。そんな世界を犠牲にしてまで、俺たちだけが助かっても意味が無い。
俺たちの勝利条件を満たすには、超々巨大質量の隕石と成る異世界の星と、背後でその標的とされた故郷の星の、両方を護り切らなければならない、のだ。
眼前の創星神の表情は、勝利を信じて疑っていないと一見して分かるほどの笑顔だ。
それもそのはずだ。ことここに至り、予想される未来は二つに一つなのだから。
俺たちが、エーテルリンクを破壊出来ないまま、地球も含めた二つの世界を見捨てることになるか。
はたまた、あれだけ強く言い張ったアイドルの輝ける場を、同志たちを犠牲に、自らの保身を採るか。
『マスター』
ディアナの、声が聞こえる。
俺はひとりでに頷いて、その声に応えていた。
ここしかない、と思った。
あの直感は正しかったのだと思った。
これまでに俺たちが出会った、そして今もまだ出会っていない、多くの人の力を必要とする瞬間が来ると思った……それが、今なのだと。
勝ち誇った笑みを湛え続ける創星神に背を向け、脇目も振らずに走り出す。
目指すは地球。しかし、金色の神が創り出した次元の穴を通り抜けるのではない。
再び、胸をいっぱいに膨らませ、叫ぶ。
「リ、ラぁぁぁっっ!!」




