星を掛ける③
……昔、俺は虐められていた。
酷く精神を病んでいた。
酷く心を弱らせていた。
暗い日々を生きていた。
世を恨んで生きていた。
もしかしたら、その頃の俺であったなら、創星神の言い分にも共感出来たのかもしれない。
人に失望し、世界に絶望していた……のかもしれない、かつての俺であったなら、死を克服することを、人間を辞めることを、理解出来たのかもしれない。
けれど――
ガギィン!! と、音高く夜剣が白鍵を斬り払う。
渾身の一撃と思われる一振りを正面から打ち返され、創星神の顔が怒りに歪む。
かつての自分では到底信じられる筈もない。神たる力持つ魔術師にも相対出来る……そんな力を、心を全身に漲らせて、奔る。
胸で輝くのは、三人の少女。
彼女たちの姿が、俺に力をくれる。
歌声が、前に進むための背を押してくれる。
日々を生きる、人生の彩になるんだ――
「――だからっ!!」
「だから……!? だから、何だって言うの!? 死が……死が、怖くないって、お前はそう言うワケ!?」
「そう、だ、よ……っ!」
「アイドルのお陰で毎日が楽しいから、死を迎える時でもきっと、満足した生涯を送れたと言えるから……だから、怖くないって!?」
「分かってんじゃ、ないかよ!」
夜剣と白鍵が、神界の中で幾度となく交錯する。
力と心が。魔素と心素が。
そして何より、神と人が、お互いの言葉も同時に、交わし合う。
「いいや……! いいや、理解出来ない! 結局一緒じゃないか! オマエも、そのアイドルも、みんな死んでしまうんだぞ!? そうなってしまえば、どれだけ充実した日々を送っていたとしても、すべては無に帰る! 何一つ無かったことになるんだ! 何の……何の意味も無いじゃないかそんなのは!!」
「だーかーらー……意味、あるって、言ってんだろ!!」
「そんな夢物語は幼子の頃に捨て去れ愚物!! 魂に残るとでも、そう言いたいのか!? そんな形の無いものを心から信じるほど、私は愚かじゃないッ!!」
鍔競り合った白鍵から、創星神の胸中が窺い知れるような気がする。
こいつは……この人は、俺たちとは違うんだと分かる。
何も無いんだ。
アイドル、とまでは言わない。けれど、そうじゃなくても、心を満たし、満足した生を過ごせていると胸を張って言えるようなものが、彼女には無いのだ。
だから、死が怖いのか。何も無いままに、空っぽのまま朽ちていくのが恐ろしいのか。
脳裏に一瞬、俺たちにこの場を託した一人の女性の姿が浮かぶ。
本当は、空っぽなんかじゃない筈だろうに、自分でもきっと、それを心のどこかで理解しているだろうに……それを、本心では受け入れようとしないまま、ここまで突き進んできてしまったんだ。




