独白-
これらの実験内容は日ごとに変わる。今日は耐久実験。明日は能力実験だったか。
早朝から始まり、主だった成果が得られなければ、深夜まで同じ内容が繰り返される。
ここで再び自問する。己の存在意義とは? 私の、私という響心魔装が存在している意味とはなんだ?
再び全身を鋭い雷撃が貫き始める。己の意思とは関係なく、身体を痛めつけることを余儀なくされる。
肉体だけではなく精神さえも刻みつけられるような痛みの中、先の自問へ答えを返す。
そんなものがあるものか、と、同じ答えを。
……いくつもの。いくつもの魔装が、この工房を発つところを見てきた。
私とは違い、早々に召喚者に見初められ、五体が綺麗なまま、精神に支障をきたさぬまま、工房を去って行く後輩たちを。
いつかは、私も。ああして素敵な主と出会い、世界へと旅立てる日が来る。
かつてはそう信じていた。
しかし今はもう、そんな希望を抱く余裕すら持てなくなってきている。
精神が一瞬暗転した。思考が暗闇に呑まれたのち、顔面に水を掛けられたような感覚で、強制的に覚醒させられる。
苦しさにあえぐ私を見下ろす、召喚者の強い意志持つ瞳とは異なる、欲望と妄執に囚われた歪んだ視線。
工房主任が、叫ぶ。
「いい加減にしろ!! 一体いつまでこの段階で立ち止まれば気が済むんだ!! 己の使命を、存在意義を自覚しろと、何度同じことを言わせるつもりだ!!!」
「わ、た、し、の……し、めい……?」
「そうだ。お前は何だ? あの科学を理解しない、我々を奇人変人と宣い、こんな僻地へ追いやった神位魔術師を、ヤツが所属する国トレイユを粛正するための切り札だ」
ガンガンと頭の奥で早鐘のような鼓動が鳴り続けている。
曖昧模糊とした意識の中、主任の怒号が響き渡る。
「お前の性能はそんな程度ではない、他の魔装とは違うのだ! 一般市民でも、魔術師でもない――お前は、神の遺伝子を持つ響心魔装なのだから!!」
「……な、に……を……?」
神の、遺伝子……?
身に覚えのない発言を受け、思わず疑問を露わにしてしまう。そんな私の様子が気にくわなかったのか、忌々しそうに鼻を鳴らすと、工房主任が膝を折って顔を近付けてくる。
「やはり自覚が足りていないようだな……神たる精神の発芽を待ちたかったが、こうなれば直接教えてやる――」
「いいか、お前は創造神……天空神アーツの遺伝子から生み出された、天空神そのものの現身。チキュウではクローンと呼ばれる、もう一人の同一人物なのだ」
「トレイユの特異点たるこの霊山の山頂に、毛髪にも似た天空神の遺伝子を宿す聖骸が遺されていた。それを培養し、我々はずっと天空神の復活を目論んできた……無限にも思える失敗と再試行の末産み出された完成体が、お前なんだ!」
「分かるか!? お前の命はお前ひとりのものではないのだ!! その身を成すために既に四百の兄弟姉妹が、己が心身を形成するより早く命を手放している! 人体実験を経たただの人間も含めれば、総数は到底数えられたものではない!」
「天空神としての権能が十全に発揮されれば、神位にも満たない程度の魔法がお前を害することなど無いのだ!! お前という魔装の意味が分かったな!? 理解したな!? 肝に銘じたな!? さあ、立て! 顔を上げろ!! 実験を再開するぞ!!!」
……髪を掴まれ、震える膝もそのままに、強引に立ち上がらせられる。
よろけ、倒れ込むよりも早く、電撃の放出が再開される。
ほら、だから言ったじゃないか。
他の魔装のように、素敵な主と共に旅立つ未来など、私には無い。
私の存在意義なんて、あるものか、と……




