独白-
「――ああああああぁぁぁあああぁああぁ、ああぁ、ああ、ぁああ……!!!」
「おい! こんな程度で音を上げるな!! 誰か、もっと出力は上がらんのか!!」
「主任、既に規定値の二〇〇パーセントを越えています! これ以上続けると、素体の精神が……!」
「チッ……! 放電を停止しろ!」
――硝子越しで、腹立たしそうに吐き捨てられた言葉の後、全身を切り裂き続けていた雷撃がピタリと止む。冷たい鉄と硝子に囲まれた空間の中、私は人目も憚らずその場にへたり込んだ。
電撃が止まった今でもまだ、全身が痙攣したまま収まらない。覚束ない視界でもその揺れがハッキリと分かるほどだ。全快どころか、自分一人で立ち上がり、歩くことすらすぐには出来そうにない。
うつ伏せた姿勢で少しでも体力の回復に努めようとする私の元に、主任と呼ばれた白衣の男性……現在地である、月の魔導工房の、地下研究エリアへと私を誘った男性が、苛立ちを露わにした足音で歩み寄ってきた。
「何をやっているディアセレナ!! 今のはせいぜい宮廷魔術師レベルの魔素から成る雷属性魔法だぞ! この程度の魔法に生身で耐えられず、あの心魂奏者に対抗出来ると思っているのか!!」
「で……ば、いす……もー、どを……これ、では、あまりに……」
「貴様の本来のポテンシャルが十全に発揮出来れば、神位魔術師レベルに届かぬ魔法なら歯牙にも掛からない筈なんだ! もっと己の存在意義を自覚しろ!!」
工房主任はそう言い捨てると、足音高く実験室を後にする。勢いよく締め切られた扉の向こうから、「十分後に実験を再開する!」という叫びが高らかに聞こえてきた。
その悪魔のような宣告を耳にしながら、私は自問自答する。
己の存在意義……? そんなものが、あるものか。
私は響心魔装ではなかったのか。何故こんなことを、いつまでこんなことを続ければ良いのか。
初めて地下研究エリアに足を踏み入れてから、既に途方も無い日時が経過している。主任と呼ばれていた男性も、かつては精悍な若者だったが、今や初老を迎え、頭髪には白髪が混じっている。
実験はそのほとんどが痛みを伴うものだった。
今回のような、対心魂奏者を想定した耐久実験。
能力強化・能力付与を図った移植実験。
召喚者ではなく、工房所属の魔術師を主として想定した、魔素接続実験。
耐久実験は言うまでもない。純粋に身体を痛めつける行為だ。
魔素接続実験は、本来心素を流すべき生命回路に、代替とされる魔素をあてがうものだが、日々代わる代わる交代される魔術師らに合わせるのは、傷だらけの心身ではとにかく疲労が大きかった。
そして何より負担だった能力移植実験。これは、主に脳へのダメージが過剰に強かった。
響心魔装の扱う能力……魔装形態や心技は、主と魔装の練度が上がるなど、一定の条件が達成されれば、あらかじめ魔装の精神と魂に刻まれていた能力が解放され、自由に使えるようになる。
しかし、その前準備である能力の習得は、人一人の精神で耐え得るものでは到底無かった。いや、もしかしたら、通常の魔装同様、魔装形態一つであれば問題無かったのかもしれない。
私は二つ、三つ、いやもっともっと多くの魔装形態や、心技の習得を押し付けられている。
脳の容量は、従前の魔装と何ら変わらないというのに。




