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色彩無き日々-

「この子たちが教えてくれたぞ! お前がこの猫を殺し、それを見せつけてきたってな! 『幽霊が見える』なんて自分の言い分を信じさせるために、自分から生き物を殺すなんて、とんでもないヤツだ!!」


嘘だ。俺はそんなことしていない。


思ったことを言葉に出すも、否定されるどころか聞き入れた様子すら無かった。教師は思いのままに感情を爆発させ、付いてきたクラスメートらは役者の如く怯えた演技を見せるばかり。


担任教師曰く、クラスメートらの話によると、俺の方から彼らに声をかけ、『こっちに幽霊がいる』『今度は本当だ』などと言うものだから付いて行ったら、この有様だったというのだ。彼らは恐怖のあまり逃げ出し、担任教師の下へ辿り着いて事の顛末を話したと。


俺じゃない。クラスメートたちが犯人だ。直感でそう感じたが、多分間違っていない。


「これを見ろ! これは、お前の物だろう!! 証拠だと、この子たちが持って来てくれたんだぞ!!」


そう言って教師が取り出したのは、地面に広がる鮮血と同じ色で染まった、カッターナイフだった。

他にも、同じデザイン、ロゴの入ったボールペンや、定規。その全てが血に(まみ)れていた。


「それ、は……」


俺が、捜していた、文房具。

クラスメートに隠されて、行方の知れなかった。


喚きたてる教師の陰から、怯えた表情ながら、何故か目だけが笑っているクラスメートたちの姿が見える。


……そこでようやく、遅まきながら全てを理解する。


昨日俺が公園を後にしたところを、奴らの誰かが見ていたのだ。そして、丁度良く俺の手元から奪い取っていた文具を凶器に野良猫を手に掛けることで、俺に濡れ衣を着せることが出来ると考えたんじゃないだろうか。


確証はない。文房具が見当たらなかった原因すら、彼らの仕業である証拠は無い。


しかし、あの目は。

この状況を心から楽しんでいるようなあの視線は、俺の予想が間違いないと思うには充分だった。


「っ……先生。俺じゃない、俺じゃないです。その筆箱は無くしてて、さっきも捜してて」


「まだそんな嘘を吐くのか! いい加減にしろよ、嘘ばかり言っているお前のことなんて誰も信じない!!」


「違う。嘘じゃない、です。本当に俺じゃ――」


「黙れ、殺人鬼が!!」


弁解する俺を、教師が過剰な言いがかりと共に勢いよく腕を振って、叩き飛ばした。小柄な体は容易く宙に浮き、鮮血に染まる地面に転がる。倒れ込んだ俺に、そのまま教師とクラスメートたちが、教育という名目で暴行し始めた。


おかしい。いくら何でも異常すぎる。状況証拠だけで俺を犯人と決めつける教師も、俺を陥れるためだけに命を手にかけたのだろうクラスメートも。


どうしてこんなことに……


殴る蹴るが繰り返される中、切り裂かれて動かなくなった猫の遺体が、視界に映る。

余りの出来事の連続に、身体が固まって動かなくなる。



『フフフ――』



どこかから、その場にいない女性のような声が聞こえたような気がするが、すぐに思考の奔流に巻き込まれて意識から消え去っていく。


嘘じゃない。俺が犯人じゃない。絞り出した声は、それ以上で浴びせかけられる否定の言葉と、拳や蹴りの乱打にかき消されて散っていく。


身体がズタボロになるより早く、意識がその場から手放され、視界が暗転した。

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