色彩無き日々-
翌日。授業の合間の休憩時間に、筆箱を捜して一人校舎内を歩き回っていた俺は、壁に据えられたスピーカーから流れた校内放送で呼び出しを受け、訝しみながら職員室へと向かっていた。
流れてきた声はクラス担任の男性教師のものだったが、かなり剣呑な様子に聞こえた。いったい何の用だというんだろう。俺を無視し始めたのはそっちの方からのくせに。
などと、まだ筆箱が見つからないことへの苛立ちも含まれた感情を抱きながら職員室の扉をくぐると、その場にいた教師陣が全員、一瞬だけ静かになり、俺の方を見てきた……ような気がした。
その空気に、いつも以上の居辛さを感じつつも、担任教師の机の方へ歩いていく。
すると、そこには呼び出した本人である男性教師一人ではなく、何人かのクラスメートの姿があった。そう、それはまさしく昨日、俺に石をぶつけてきた面々だった。
二、三人ほどいる少年らは、どうしてか一様に怯えたような様子で顔を伏せていた。中には嗚咽を漏らし、肩を震わせている者さえいる。
より一層の居辛さが増した。すぐにでも立ち去りたかったが、そんな俺を余所に、何故か剣呑な表情の男性教師が急に席から立ち上がった。
「篠崎!! とうとう仕出かしたな、この異常者が!!!」
「え……?」
近寄って立ち止まるや否やそう浴びせかけられた激昂の言葉に、思わず窮する。
仕出かした、とは、いったい何のことを言っているのだろうか。
「来い!!!」
俺が一切の反応をするよりも早く、担任教師は俺の肩を物凄い力で掴み、ずんずんと大股で職員室を出ていく。強引に連れられて行く俺は、その後方に続いて来た数人のクラスメートの方を何が何だか分からないまま振り返った。
今なお沈んだ表情をしている彼らだが、不思議と足取りは軽い。激昂した様子の教師の大股に遅れずついてこれる程だ。そして何故か、時折笑い声のようなものが漏れているように見えた。
必死に押し殺しているけれど、我慢できない、といった具合に。
そんな少年らの不可思議な様子もまた、意味が分からない。しかし、俺が事態のほんの一端でも理解するより早く、教師が立ち止まった。目的地に到着したらしい。
「見ろ!! これは、お前の仕業だな!!!」
そこは、体育館裏だった。立地から日差しが差し込みにくく、いくつか木が生えていることもあり、常態的に薄暗く、人気が少ない場所。
担任教師が指し示した方向に、薄暗い体育館裏でも一見して分かるほどに赤色が目立つ部分があった。地面の一角が、水たまりのような形で真っ赤に染まっており、その赤い広がりの中心に、小さな影が見える。
それを見て、息を呑んだ。
「――ぁ」
真っ赤な血の海の中心に横たわっていたのは、先日公園で僅かな時間共にあった、あの野良猫の……亡骸、だった。




