色彩無き日々-
「――寄るんじゃねぇよ! この嘘つき!!」
痛っ。
……離れたところで轟いた怒声に少し遅れて、額に鈍い痛みが走る。足元に小さな石ころがころころと転がった。
学校の校庭だった。授業は終了している時間帯で、空には夕焼けの赤みが差している。
人気の少ないがらんとした空間で叫んだ、年の頃が十歳くらいだろう少年の声は、どこまでも彼方へ響いていきそうな勢いで広がった。
触れると、額が腫れ上がっている。遠くで叫んだ少年らの誰かが、こちらに向けて投げてきたらしい。
少年たちは、痛みに歪んだ表情を見て満足そうにゲラゲラと笑い合うと、それ以上の興味を無くした様子で校庭から去って行った。
一人ぽつんと取り残された私……私? なんだ、私って。
俺は、足元で動かなくなった石ころに視線を落としたまま、ぼそりと呟く。
「……嘘じゃないのに……」
石ころから上げた視線の先。校庭の隅に生えている、相当の樹齢があるだろう松の木。
その幹の陰にひっそりと立つ、ピシッとした軍服姿の男性の姿。
彼の姿は、あの少年たちには見えなかった。
俺には、こんなにもはっきりと見えるのに。
「痛……」
ズキン、と投石の接触した部位が痛みを訴える。また生傷が一つ増えてしまった。三日前にも、複数人のクラスメートに絡まれて転倒させられ、膝を擦りむいたばかりだって言うのに。
心身共に、立ったままでいるのに疲れてしまった俺は、校庭の端にある、何故か半分だけ地面に埋まっているタイヤに腰かけた。
今日はなんて言い訳しよう……膝の傷は帰り道に転んだってことにしたから……
「鉄棒から落ちたことにしよう……」
傷について言及されるであろう両親への言い訳を思いついた俺は、夕暮れに染まる校庭をとぼとぼと後にする。
家へ向かうまでの道中、友人と言えるような人と一緒に帰った記憶はほとんどない。もう慣れてしまった一人での家路。
その途中、何人かのぼうっとした表情の人とすれ違う。たまに歩道のど真ん中にいることもあるので、そういうときはわざわざ避けて歩かなければいけない。
三日前のときは、それをたまたまクラスメートに見咎められて、絡まれてしまったんだっけ。
だって、仕方ないじゃん。その時道に立ってたのは、プロレスラーみたいに筋肉モリモリのマッチョ男性だったんだもん。ぶつかって怒らせちゃったりしたら、膝小僧の傷程度じゃ済まなかったかもしれない。
その時にも言われた。「嘘つき」「ホラ吹き」とか、「狼小僧」とか、いろいろ。
嘘じゃないのにな……
なんだか、俺にだけ見える人がいるみたいなんだけど、別にそのことは嬉しくなかった。
自分が普通じゃない、なんだか特別な力を持ってるなんてすごい、とか、そんな風に喜んだりできなかった。
自分は本当のことを言ってるのに、それを頭ごなしに否定されて、迫害されてしまうことの辛さの方が、ずっとずっと嫌だった。




