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独白-

早足で続々と背を向ける研究者たちに、慌てて続く。


その全員が大の大人である一方、こちらは十代初めと思われる程度の肉体年齢だ。歩幅の差は歴然で、普通に歩いていれば置いて行かれそうになるところを、ほとんど駆け足で付いて行く。


「……そのための能力付与(アビリティプラス)実験。付与された能力を伸ばす練度昇華(アビリティグロウ)実験。他、最低限でも、高等学舎レベルの知識も身に着けてもらう。それ等の方が優先だが、万一の際の偽装も兼ねて、異世界に関する学習も受けさせることになるだろう」


「何度も言うが、時間が無い。いつあの性悪な神位魔術師に気付かれるか分かったものではないからな」


研究者の一人一人が、代わる代わる早口で色々とまくし立ててくるが、誰一人として私の方を振り返る者はいない。皆一様に、薄笑みを口元に湛え、怪しげな雰囲気を纏ったまま歩を進めている。


「えらく時間がかかったとはいえ、完成体が出来たのは僥倖だ……あとは時間との勝負なんだ。君が使い物になるのが先か、奴らが気付くのが先か」


『ふーん。中をよく見たことは無かったけど、こうなっていたんだねぇ。研究のことしか頭に無いって感じで、なんだか親近感湧いちゃうなー』


……? 今、研究者たちの声に交じって、場違いな女性の声が聞こえたような気が。


「これまでに倒れた多くの先達のためにも、君には早急に力を付けてもらいたい」


気のせいだったのだろうか……?


研究者たちの背中を前に、きょろきょろと周囲を見回すが、一見してそれらしい女性の姿は見られなかった。いや、女性がいないわけでは無いのだが、声が聞こえる程近くにいる人はおらず、こちらに気を向けている人の姿も無い。自分がいま手掛けている作業に没頭している人ばかりだ。


その間に私は、周囲の様子を確認することが出来た。


広い空間に、多くの魔導機器が転がっている。機能停止して作動しないものもあれば、雑な扱いながらも現役で、研究者に操作されているものもある。


月の魔導工房(ムーンファクトリー)……響心魔装(シンクロ・デバイス)を製造するための工場は、初めてそこを歩く私でも分かるほどに、研究者たちの発する険しい空気で満ち満ちていた。


研究者らは大きな一部屋であった空間を出ると、階段を下り始めた。二階、一階と階下に降り、そのまま一階のとある場所へ向かう。


そこは、ただの壁のように見えた。しかし、その場所へ辿り着く直前に覗き見た、その壁に隣接する診察室のような部屋の大きさからするに、そこに壁があるのはおかしい。もう一部屋用意するには狭いが、半畳ほどの物置程度なら用意出来るだろう。それくらいの空白の空間。


先頭を歩いていた研究者の一人――私に、容器から外へ出てくるように促した男性だった――がその壁に触れ、魔素を流し込んだのが分かった。その直後、壁に黒い魔法陣が広がり、白い壁が音も無く消え去る。


更に階下。地下へと続く階段だった。


「これより、初期実験に入る。多少の痛みを伴うだろうが、魔装なら誰でも通る道だ。ある程度は耐えて受け入れるように」


感情を感じさせない声音で呟いた男性が、そこで初めて私の方を見た。

その視線は、私の名を呼んだ時の声音と同様、どこまでも平坦で乾ききったものだった。


現れた入口が、明かり一つ無く闇へと誘う階段が、私のこれからの未来を暗示しているように見えてならなかった。

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