神の衣を纏いて⑩
「その、姿……――ッ! その色は!! そうか、アルトめ、屁理屈のような概念を込めやがって……!」
俺たちの姿を見た創星神が、苦虫を噛み潰したような渋面を作ってそう吐き捨てる。
それもそうだろう。自分のことであるからか俺には分からないが、今の俺たちからは、創星神と同等の神威が放たれている筈なのだから。
彼女は先ほど、一つ間違った発言をした。
大地は、天空より星に近く強大なのだと。だから、アーツの神位を受けた心技と言えど創星神の魔法には抗し得ないと、そういう意味の発言をした。
それが間違っている。
大地が、イコール惑星そのものであるというのは分かる。
地面から、陸地から、大陸から繋がって、星の核そのものを司る概念であるという理屈も理解出来る。
では、空は? 地面より上全てを覆う天空は、星そのものに比して矮小な存在となるのか? 答えは否だ。
そもそも、創星神は自分で言っていたじゃないか。
空とは、星と宇宙とを隔てる蓋であると。
それは、見方によっては――天空は宇宙と地続きになっていると言えるじゃないか。
空は、昼日中の世界を彩る天井であり、太陽・月・星の光と、夜の色を――宇宙の色を惑星へと届ける硝子の天蓋。天空神は、その概念を込めて彼女を……ディアナを作った。だから、天空神の落とし子であるディアナが宿す色は『夜色』なんだ。
これが、俺たちの本当の神装神衣。
魂レベルで意識を響心させた俺たちの姿。
昨夜、改めてアーツから戴いた、その神位名は――
「『――神装神衣。天位・黒神月狐!!』」
赤と黒の非対称眼が、両方に天空の神位を宿し、金色の女性神を視線で射抜く。
神位魔術師では無い。エーテルリンクの人間ですらない。地球人と、響心魔装による異例の神装神衣。
そんなイレギュラーな存在が心底疎ましいようで、忌々しさを前面に押し出した表情で創星神が言葉を絞り出す。
「……ニンゲンと、器にもなれなかった出来損ないの分際で。私の邪魔をするんじゃないッ!!」
人差し指ではなく、大きく振り払われた金色の右腕が、無数の恒星裂破を連鎖的に発動させた。
俺たちはあくまで冷静に、脱出するだけの分のスペースを闇夜神路で切り拓き、他の爆破が及ばない位置へと回避する。
しかし、次の瞬間、俺たちがそうするのを待っていたとでも言わんばかりに、創星神の口の端が鋭く吊り上がる。
「天隕石!!」
突如現れた隕石群が、俺たちの飛び退る空間全土を撃ち抜かんと降り注いだ。
一つ一つの大きさが尋常ではない。俺の世界の月くらいはあるんじゃなかろうか。
それほどのサイズの星々が、創星神の能力により続々と産み出され、次いで連続して落下してくる。
これはきっと、回避しようが術者の誘導によってどこまでも追ってくるタイプの魔法だろう。
世界を、星を創り出せる……か。
迫り来る隕石とまだ距離がある位置で立ち止まり、両足を擦って勢いを殺しながら向き直る。
「今度こそ破れやしない! 貴様らが、本当に、私と同じ力を持ってでもない限り――!」
「だから、そうだって言ってるだろう」
応じつつ、足元の夜色の魔法陣を蹴る。
再度右足に心素を込める。右足と、刃翼が展開される。
振り抜く。
「『闇夜神路!!』」
放たれるのは夜色の、いいや、『宇宙の色』を宿す波動。闇夜神路は、迫り来る隕石群を真正面から受け止め、そしてやはり、その全てを呑み込んでから、消滅した。
創星神の表情が、決して認められない、といった様子の苦悩に歪む。
……星を創るとはそれ即ち、惑星に生きる存在にとって、世界を創られるのと同義。
創星神は世界を創る。己にとって都合の良い世界を、惑星を創り出し、こうして攻撃の手にさえする。
では、その惑星は、どこに存在している?
惑星が存在するのは宇宙空間だ。宇宙空間とは、異なる様々な世界がショーウィンドウのように並んで存在する、もう一つの世界に他ならない。
宇宙と接する空を司る天空神の権能は、創星神のそれと同じだ。
つまり、地母神が進化した創星神は、星という名の世界を創り……天空神が進化した神は、宇宙という名の世界を創る。
天空神の進化した先が放つ闇夜神路という心技は、宇宙を創る心技、なんだ。




