神の衣を纏いて⑤
「――おい! 聞こえているんだろう、アーツ! いや、敢えて以前の名で呼ぼう。我が助手アルト! こんな、偶然キミと同じ目を持っていただけのニンゲンと、歪な器もどきで私を止められると、本気で思ってるのかい!? 万が一にも私に抗し得る可能性を持つとしたら……かつて同じものを目指し、その支援を務めたキミを置いて他にない! 笑えない冗談は止めて、さっさと私の前に立ったらどうだ!」
『…………』
師匠の声が聞こえる。閉ざされた桜色の扉の向こうから。
恐らく向こう側……地球の神界には、世界を繋ぐ扉の姿は跡形も無いはずだが、次元間の隔たりなど容易く超越し、その声はこちら側まで届いていた。
二、三ほどは言葉を交わしているだろう篠崎悠葉らの声は聞こえてこないのは、師匠がそれを許していない……言い換えるなら、自分の声だけを届けるように、神たる権能を発揮しているのだろう。
本来なら、その権能による許可が無ければこちらからの呼びかけも届くことは無い筈だが、彼女は私からの、かつての助手であった存在からの返答を求めている。今なら、こちらの声が届く筈だ。
ならば……答えよう。
今の私の、ありのままの気持ちを。
『お断りします、師匠。私に、もう今の貴女は止められない』
「……………………は?」
何を言っているのか理解出来ない、という表情を浮かべているのが目に見えるような、そんな沈黙をたっぷり設けた後で、間の抜けた言葉だけが聞こえてくる。
続ける。
『私はここまで、貴女を止めなければならない、という義務感唯一つでやってきました。かつて、貴女の助手を務め……二度、世界を見限った貴女を、止められなかった者の責任として』
そう、師匠の言う通り、彼女の助手だった私だからこそ許されない責任。追い続けなければならない背中。収拾しなければならない事態。
無関係の立場にいる人に押し付けるわけにはいかない。他の誰でもない私こそが、解決しなければならないのだと。そう、自分に言い聞かせてきた。
しかし。
『しかし、貴女の力は大きくなり過ぎた。もはや私の手には負えない……それこそ、師匠と同じように、世界を犠牲にして手に入れるような、強大な力の後押しでも無ければ』
そんなことをしてしまっては、師匠と何も変わらない。彼女の勝手な振る舞いを止める側である私が、そんな手段をすることは許されない。分かっていた筈なのに、私は、それと同じことをしようとした。
ディアナの肉体を、篠崎悠葉の心素を、その場の全ての人間のエネルギーを手に、師匠へ対抗しようとした。
今なら分かる。たとえその手段を採る結果になっていたとしても、師匠を止めることは出来ないだろうと。




