神の衣を纏いて④
星の光の如き小さな輝きが、あちらこちらで瞬いている。
まるで宇宙空間のような漆黒の空間を、俺とディアナは疾走していた。
夜桜の扉が閉ざされる寸前、扉の補強を行っていた夜色の刃翼が瞬時に俺の足へと舞い戻り、それと共に外の世界との接続が完全に断絶された。扉があったはずの空間にはその名残が一切無く、上下左右が全く同じような黒の空間で広がっている。
夜色の刃翼を翼の如く大きく広げ、泳ぐようにして駆け出した。空間には、当然物理的な足場は存在しない。自身の能力と神威で己の存在を確保し、姿勢を制御して先を急ぐ。
ここが地球の神界……地母神やアーツの話ではそういうことらしいが、その割には、他にもいるのだろうと思っていた神の姿が見えない。敢えて姿を見せていないのか。それとも、そんなはずないと信じたいが、一日も置かなかったこの僅かな時間のうちに、地母神に何らかの攻撃を受けてしまったのだろうか――
「――そんな暇があるワケないじゃないか。野蛮だねえ」
そんなことを考えた時だった。頭上から、そう女性の声が降ってきたのは。
立ち止まり、急ぎ上を仰ぎ見る。
そこに居たのは、琥珀色の髪を大きな三つ編みでまとめて白衣を纏った、丸眼鏡の女性だった。宇宙空間よろしく、重力の概念も無いだろうこの空間の中、周囲に縦横無尽に浮かぶ本棚と、そこから散らばった無数の書籍に囲まれながら、膝を抱えて寝転がっている。そんな体勢ながら、視線だけは凄まじい勢いで本の中身を行き交っていた。
外見だけなら、普通の人間のように見える。
誰だ? その容姿は間違いなく初見のものだった。けれど直感した。
彼女が、かつて俺がフィリオール先生と呼んでいた女性だと。アーツと同じ、かつて人間であった頃の、地母神の姿なのだと。
地母神と思われる女性は、現在目を落としている書籍が読み終わったらしく、閉じると同時に無造作に本を放り投げると、不可視の力でそれとは別の本を本棚から引き寄せ、再び読み進め始めた。
「無粋、だね。さっきも言ったけれど、私は忙しいんだ。どこの誰とも知らない賓客のもてなしなんてしている暇はないのさ。さっさと回れ右して帰っておくれ」
「……そうもいかない。あんたを放置したままで、この星にも何か仕出かされちゃ、たまったもんじゃないからな」
その俺の返答でようやく、地母神はこちらに関心を示したようだった。本の内側のみに注がれていた視線が停止し、ちらりと一瞬だけ俺たちの方を流し見た。
「誰だいキミたち? 私のことを知っているかのような口ぶりだから、もしかしたらと思ったのに、私の助手じゃないじゃないか……いや待てよ。確か、彼女の神位を受け継ぐ継承候補がいたっけ……まさか、キミたちはそれかい?」
「……だったら、なんだ?」
「ッハ! バカ言うんじゃないよ! キミら、人間と神の紛い物を混ぜ合わせただけの出来損ないじゃないか! 神位なんて欠片程度しか入ってない不純物だらけだ! だいたい、継承が正しく済んでいるのなら、私と同じように、器の記憶なんて綺麗さっぱり無くなっている筈さ……おいおい、まさかとは思うが、あの子はキミらにこの場を預けたって言うのかい? 冗談だろ!」




