夜会話⑮
「はいはい、気を付けますよ。ところで……どしたんディアナ。そんなに耳萎れさせちゃって」
「いえ、その、何と申しますか。腫れもの扱いされることも、距離を置かれることも覚悟でおりましたのに、拍子抜けと言いますか。肩透かしを食らったと言いますか」
「え? なんで」
「……だって、私は。人間でも、まともな魔装でも、なくて。チキュウの人にとっても前例の無い、得体の知れないもの、ですから……」
「おお……ディアナにこんなこと言う日が来るとは思ってなかった」
「は、はい……?」
「馬鹿ですね、ディアナさんは」
「は、はい!?」
「見くびってもらっちゃあ困りますよ。だいたい、これまでの旅の中で、俺が一度だって、ディアナの種族がどうかなんて気にしたこと、ありましたか? ないでしょーが」
「それは……その通りですが――ひゃわっ!? ま、マスター、何を!?」
「やかまし。そーんなことを言うおバカはモフモフの刑だ。大人しくモフられなさい」
「み、耳は敏感なのですが……っ、ん!」
「おおう!? ご、ごめん。調子に乗った」
「ハァ、ハァ……い、いえ……」
「あー……コホン。とにかく、俺は何も気にして無いし、ディアナはディアナなんだから、ディアナ自身も何にも気にすることなし! オッケー!?」
「は、はい」
「……釈然としない顔してんね。そうは言われても自分が納得できない、って感じ?」
「い、いえ、そのようなことは」
「……よし。ディアナ、ちょっと散歩しようか」
「はぁ。どちらへ?」
「んー、上かな。月神舞踏よろしく」
「はい」
「よし。じゃ、行こうか――」
『……見事な星空ですね』
「そうだな。この町はそこそこ都会だけど、それでも数百メートルも上空まで来れば、満天の星空が見えるもんだ……こんな空の下だったよな、ディアナと初めて会ったのは」
『――はい。あの日のことは、何もかも鮮明に覚えております。私の閉じこもっていた容器に触れてくれたマスターの熱も、差し伸べてくれたマスターの手のことも』
「はは、そう言われると恥ずかしいな。あの時はボロボロだったし……あれから、まだ二ヶ月そこらしか経ってない。正直、俺はまだディアナのことについて、知らないことの方が多いって思ってる……でもさ、それとは逆に、知ってることもあるんだ」
『私について、知っていること、ですか?』
「うん。生真面目で、いつだって冷静で、それでいて外見相応の好奇心が覗くこともあって……アイドル、白風瑠奈に憧れる一人の女の子。それがディアナ……って、偉そうに言っといてこれっぽっちで悪いけどな」
『…………』
「でも、それらは間違いなくディアナ自身のことだと俺は思ってるし、ディアナが人間でも、魔装でも、他の何であっても変わらないことだって、信じてる」
『マスター……』
「もう一度言う。俺は、ディアナが何であったって気にしないし、それはこれからも変わらない。大事な相棒で……俺の――」
『――響心魔装、ですから』
「……はは、そう。その通り! それでこそディアナだ!」
『はい。申し訳ありません、マスター。貴方の響心魔装ともあろう私が、気弱なところをお見せしてしまって……もう、大丈夫です。初心と、一番大事な心を取り戻せました。マスターのお陰です』
「いいよ。んじゃ、そろそろ戻るかな」
『……いえ、マスター』
「ん?」
『もう少し。もう少しだけ、この星の海を泳いでいきませんか?』
「……うん。勿論」




