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夜会話⑨







私たちが暮らしていた惑星は、現在の地球と同程度か、それより少し未来の文明を有していました。


地球と異なる点といえば、発展している技術体系が、科学ではなく、『超能力』とでも言うべきものであったことでしょう。とはいえ、その技術の発展先は、地球における科学と同じ方向性であり、文化体系は現代地球の先進国とそう変わりありません。


使用者の意志の力で物理現象に干渉するその力は多様性に富み、それ故に謎も多く、奥の深い力でもありました。エルデアース……今は敢えて師匠と呼ばせてもらいますが、師匠は、超能力の研究に長年携わり、その道の第一人者として、世に知られた学者だったのです。


私は、師匠の研究所の副主任を務めていました。それと同時に、公私ともに彼女のサポートをしていた……助手、だったのです。


あるとき、私たちの所属している国と、その近隣にある国の内の一つとが、戦争を起こしました。実に突発的な出来事でした。


戦火は瞬く間に国から国へと広がり、次第に世界全体を巻き込む大戦へと発展しました。


我々の国をはじめ、多くの国が被害を最小限に抑えようと動きました。しかし、それを上回る多数の過激派が続々と増え続け、やがて誰にも止めることが出来ない規模へと広がってしまったのです。


私は師匠に、まだ連絡を取ることの出来る各国の首脳陣を連れて、シェルターへの避難を提案しました。


そんな状況下でもなお、残された研究所の一角で、師匠は作業に没頭していました。


世界がこんな状況であるならば、研究所に一人で(こも)っているより、もっと師匠の力を活かせる場所があるだろうに。実際にしばらくの間、師匠の世話や補助から離れ、戦争の終息に向けて奔走していた私は、かなり語気を荒げて師匠へ迫っていた記憶があります。


しかし師匠は、穏やかに微笑みながら、首を横に振りました。そして一言、「もう誰も助からないよ」と呟いたのです。


まるで、世の情勢に一切の関心が無いかのような声音で。


師匠の研究分野は多岐に渡ります。時には国からの依頼で特殊な実験や、ある効能に特化した薬品の精製などを行うこともありました。あくまで彼女の専門は人体の生命機能……不老不死への進化にありましたが、多くの研究分野の中に、超能力により、ごく直近の未来を知る能力――地球では占いと呼ぶそうですが――に関するものがあり、研究の中で、師匠はその能力に目覚めたようでした。


その能力で見た未来のことを言っているのならば、その結果は避けられないのではないか。


検証の無い予言の信憑(しんぴょう)性に戸惑う私を意にも介さず、師匠は、「キミも来るならおいで」と研究所の奥へと姿を消しました。


何が何だか分からないまま、彼女の後を追った私は、師匠が一人、研究所で何をしていたのかを知ることになるのです。


辿り着いた研究所の最奥。一際広い実験室の床に、見慣れない幾何学な模様の円陣が描かれていました。


これは? 私は問います。


他の世界へ転移するための転送陣さ、と、師匠は答えました。

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