夜会話⑧
その際、俺が旅を急ぎたがる理由や、ひいては、ルナちゃんとの出会いについての一部始終をディアナに語っている。その話を聞き終えた時、ディアナは確かにこう言ったのだ。
『マスター。いつか、私の話を聞いて下さいますか』、と。
アレは旅の随分序盤だったし、それからあまりにもいろいろなことが起こりすぎていて、今の今に至るまで、ディアナにその話について問いかけたことは無かった。その話があった時も、心の準備ができるまで待ってほしい、ってことだったし。
一メートルほどの距離を隔てて向かい合って立つ相棒は、驚きの中に満足感と安堵感を思わせる表情を見せた後、伏せていた紅の双眸を再び開いた。
「ありがとうございます。そんな、忘れていてもおかしくない言葉を留め置いて下さって……話の内容は、どちらも同じです――私の、過去について」
ドクン、と、心臓が跳ねた気がした。
……相棒、とは呼んでいても、俺はディアナについて知らないことが多い。
幼い外見ながら冷静沈着な大人びた物腰で、その一方で初めて見たものに興味津々になるような好奇心も持ち合わせていて、アイドルに憧れる一人の少女。
あとは、果物が好きそうとか、いつも冷静そうに見えて、時折抜けてるところもあるとか、俺が彼女について知っていることといえばそれくらいだ……出会ってから二ヶ月そこらという期間だけ見ればそんなものなのかもしれないが。
気にならないと言えば嘘になる。しかし、俺自身あまり胸を張って語れるような過去を送っているわけではないから、あまり踏み込んで聞くことも憚られるというのが本音だったけど。
「教えてもらってもいいか」
「はい、勿論……ですがその前に、彼女の話を先にお聞きください」
意を決して問いかけた俺の肩を透かすようにディアナが促し、再び手の中のスマホを持ち上げる。鉄面皮ともとれる無表情のアーツが小さく頷いて答えた。
『割り込むような形で失礼します。そして……まずは、謝罪を。ディアナの心身を支配し、身勝手に操ったことをここに謝罪いたします。申し訳ありませんでした』
画面の向こうで、ディアナと瓜二つの顔をしたアーツが、濡羽色の髪を垂らして頭を下げた。
「いやいやいやいややめてそういうの! 分かってたから! ちゃんとディアナの精神残してるの見えてたから! 俺たちを成長させるつもりで自分を脅威にしたんでしょ!」
慌てて謝罪姿勢を直すよう訴える。前にもあったが、誰かが申し訳なさそうな様子でいるのはどうにも居心地が悪いものだ。こっちは気にしてなんかいないのに。
『……やはり、そこまで見えていましたか。貴方の目は、今や私より遥かに力を増しているかもしれませんね』
「それはよく分かんないけど……それで、話っていうのは?」
『失礼、脱線しましたね。それでは本題に入らせて頂きましょう。いずれ語られるディアナの過去の話の前に、少し遠回りになりますが、そこに連なる、更に過去の話を』
そのアーツの言葉に、俺は眉を顰める。ディアナの過去は分かる。それに関連性のある昔話をしようとしているんだな、っていうアーツの言葉の大筋の意味も分かる。
分からないのは、いったい何の過去を語ろうとしているのか、ってことだ。
『貴方達が旅をした、地球とは異なる世界エーテルリンク。彼の世界の神として世界を管理していた私とエルデアースは、元々は、神ではなかった。貴方達と同じ、人間――全く別の異なる天体、銀河系の星で生まれ育った……普通の、人間だったのです』
理解が追い付かないうちにそう紐解かれたアーツの昔語り。その始まりの一節が、俺の頭に浮かぶ疑問符を倍以上に増加させた。




