夜会話⑤
半分呆けた表情をして、組んだ足の上で頬杖を突くアイリスを、苦笑したままのルナちゃんがなだめている。
「まあまあアーちゃん、気を取り直して。悠くんのお話だと、私たちも結構重要な役回りみたいだし」
「ん……あんまりよく分かってないけど、とにかくライブみたいなものなんでしょ?」
「まあ、そうだな。アイリスが今までやって来たものとはちょっと違うかもだけど」
「リラも……おてつだい……するー……」
「ふーん……ならまあ、何とかなるでしょ。いざという時は頼んなさいよ。そっちは任せるけど」
「お、おお……」
なんだか急に大御所の風格と言うか、多少の出来事では動転しない胆力を感じさせるアイリス。
夕方の騒ぎっぷりが今はどこ吹く風といった様子だ。
そんな変化に戸惑う俺の内心が、やはり表に出ていたらしい。頬杖を突いたまま目を伏せ、小さな溜息を吐いた後、金髪の少女が口を開く。
「心配いらないわよ。別に諦めたとかそう言うんじゃないから。本気で、何とかなる気がするって、それだけよ」
誰かさんのせいでね、と言い、頬杖をついていない方の手を持ち上げると、片目で俺のことを見ながら人差し指を向けてくる。
「……ん? え、俺のおかげ?」
「そ。アンタのせい。アンタ言ったでしょ? 推しアイドルたちのためなら、どこまでも頑張れるって」
ああ、そのことか。それはそうだな。
間髪入れず首肯する。
「アタシね、勿論アンタたちが死んじゃうかも、っていうことも怖かった。けれど、それと同時に……ユーハやディアナが、今と変わっちゃうんじゃないか、ってことも怖かった。もしかしたら、アンタたちが死んじゃうかもってこと以上に」
「……それって、神様になるって意味で?」
「そうね。神様とか、もしくはそれに近い存在になってしまって……今の関係が無くなってしまうんじゃないかってことが怖かったの。友達として。仲間としてのね」
「…………」
人間から、アーツに代わる神へと成ることで、俺という個人が消え去るのではないか。ディアナという人格が失なわれるのではないか。アイリスはそれをこそ気に病んでいたのだ。
今の存在から、全く別のものへと変わる。それが進化と変化、どの表現が正しいのかは俺では判断出来ないが、その副作用で、現時点で存在していたものが無くなる可能性は……おそらくゼロではない。その可能性、危険性を心配するのは当然と言える。
しかし金髪の少女は、でもね、と、組んでいた足を揃え、居住まいを正すと、その頬に柔らかな笑みを浮かべる。
「推しアイドルたちって、アンタは言った。それって、ユーハがもともと応援していたルナ以外にも、応援する相手が増えたってことでしょ? そして、それは……アタシと、ディアナのこと、でしょう?」




