夜会話④
「――っていう感じで明日は頼みたいんだけど……アイリス。アイリス? 聞いてる? おーい」
「あによ。ちゃんと聞いてるわよ。ハイハイりょーかい」
シロカゼプロダクションが居を構える雑居ビルの五階。同事務所の仮眠室にて、俺は今度は女性陣と会話を交わしていた。メンバーは俺の他、アイリス、リラ、そしてルナちゃんである。
仮眠室は八畳ほどの広さの正方形の部屋で、二段ベッドが二つ並んで壁際に据えられ、その正面の壁に、一人掛けのソファが小テーブルを挟んで二つ、置かれている。俺はそのソファの一つに腰かけ、二段ベッドの下段に並んで座る女性陣に向き直っていた。
明日には地母神との戦闘を控えているとはいえ、アーツとのひと悶着を終えたことと、場所が場所――普段そう足を踏み入れることは無い芸能事務所――ということもあってか、どこか合宿のような、修学旅行にも似たテンションが漂っている感じがする……って言っても、日程のほとんど全てを一人でやり過ごした俺にはピンとこない部分もあるけれど。
テレビや漫画の中で見た、学生生活における非日常。そんな空気感の中にある故か、金髪の少女の表情が、どうにもはっきりしていないように見える。
「ホントかよお前それ……何そのカオ。どういう顔?」
「どうって何よ」
「なんて言うか、こう……心ここにあらずって言うか。決戦が明日に控えた人間の顔つきじゃないって言うか」
「それ、アンタにだけは言われたくないんだけど……別に? あんだけ心配してたバカが割とあっさりパートナーを助けてるのを見て、アタシの心配は何だったんだろってちょっと思っただけよ」
「あー……」
言われて気付く。結果的に事が納まったとは言え、アーツはその宣言通り、俺たち全員を蹂躙し、魔素や心素などのエネルギーを全て奪い取り、自身が地母神と相対することも考えていた。つまりは、アイリスの案じていたように、俺も、ディアナも、リラやルナちゃんたちも……命を落としていた可能性はあったのだ。
それが、自分が追い付いた時には何もかも済んでいた、という結果を目にしては、少しばかり意気消沈してしまうのも無理ない、のかもしれないが……
「……ごめん?」
「なんで謝んのよ」
「いや、なんとなくそうした方が良い気がして」
「……アンタ、そういうことは思ってても言わない方が良いわよ。逆効果だから」
呆れた様子でそう指摘される。リラは相も変わらぬ眠たげな表情のまま首を傾げているが、ルナちゃんは苦笑いしている。なんかよく分かんないけど……まあ、アイリスがそう言うなら気を付けよう。




