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夜会話③

赤上さんが疑問符を浮かべているのは、俺の説明した内容と、神との戦闘、というものとの関連性がすぐに思い浮かばないのだろう。しかし一方で、どうやら俺の意図がつながったらしい祭賀さんは、一人険しい表情のまま眉間のシワを深くしている。


「……そうだね。君の提案したことは、その危険性を充分に孕んでいる」


「……はい」


そこは否定しない。いや、否定出来ない。紛れも無い事実だからだ。

世間の評判。明日の状況変遷。他にも、俺たちの手が及ばない様々な影響で、思いがけない印象を世の人々に与えてしまう可能性は、絶対に存在する。


「しかし……必要な事なんだろう?」


こちらを試すように向けられた視線。芸能界という名の荒波、数々の修羅場をくぐった歴戦の勇士たる祭賀さんの視線が、正面から真っ直ぐに浴びせかけられる。


一瞬、言いようも無いプレッシャーに押しつぶされそうになって、呼吸が止まった。

先刻の地母神の放つ神威にも決して劣らない迫力。社会人が故の責任感という、まったくの別ベクトルながら、まるで遜色ないプレッシャー。


一度だけ、深呼吸をして、その視線を受け止める。


「――はい。きっと、ルナちゃんの……みんなの力を借りる時が、来るはずですから」


「…………」


この返答もまた、嘘ではない。

直感だ、とは言ったものの、俺は必ずそうなるんじゃないか、という妙な確信に近い感覚を覚えているのだ。


足手まといにならないよう任せると言った二人も、今は液晶越しでこちらには干渉できない一人も、もしかしたら、異なる世界に居ながら、俺たちのことを知る大勢の人たちも。


その全ての力を必要とする時が来る。そんな気がする。


言葉では言い表せない、説明するにも根拠の弱すぎるこの直感を、口にはせず視線だけに込めて見据え返す。


……そんな俺の胸中がどこまで伝わったのかは分からないが、しばらくののち、祭賀さんが小さく溜息をついて視線を外し、柔らかい微笑を湛えた。


「赤上君、出来る限りのバックアップをしてやってくれ」


「っ!」


「……ええ! 社長ならそう言うと思ってましたよ!」


半分不思議そうな様子だったにもかかわらず、赤上さんは二つ返事で頷くと、急ぎ足で会議室を後にしていった。恐らく、設備の整っている事務所の方へ向かったのだろう……俺の提案通りの作業をするために。


「いいんですか? と聞きたそうな顔をしているね」


「え。いや」


「ふ。先程ハーシュノイズ氏も言っていたが、何気に内心が顔に出やすいタイプのようだね、篠崎君は」


そ、そうなんだろうか。自分では全く意識してなかったけど。

顔を背けながら頬を()ねまわしている俺を余所に、どこかすがすがしい表情で祭賀さんが言葉を続ける。


「実のところ、私も妙な予感がしているんだよ。胸騒ぎというか、武者震いというか、そういった(たぐい)のものをね」


「む、武者震いっすか」


「そうさ。今の状況……これは、我が社が迎える、最大の転機なのではないかというね」


転機、か。それは確かに、どこの誰とも知れぬ女神のせいで、これまでの世界が変わるかもしれないのだから、転機と言えばその通りなんだろうけど……会社規模の話ではないような気も。


「この機会をモノに出来た時、シロカゼプロダクションは、瑠奈は、もっと大きく輝ける。ずっと上のステージに立てる……そして、その新たなステージには、瑠奈だけではなく……アイリス君や、ディアナ君もいるような、そんな気がするんだ」


勿論、君やリラ君も一緒にね、と続けられた言葉にドキリとする。まるで、俺もその輪の中の一人で、アイドルプロダクションの身内であるかのような口ぶりだったからだ。


「その成長を迎えるためなら……新たな仲間のための助力なら、是非も無いさ」


そう語る祭賀氏の瞳は、それまでの冷静沈着な成人男性のものではなく……在りし日のワクワクを思い出したような、新しいものへ挑戦することの楽しみを見出した少年のような、そんな輝きを宿していた。

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