夜会話①
「――ふむ。では、もう明日にでも攻め込もう、という話で良いのだね?」
「はい。それが一番いいみたいです」
再びのシロカゼプロダクション会議室にて。夜も更け、窓の外は静謐な闇に染まる一方で、祭賀さんをはじめとする男性陣が机を囲んでいた。
『随分と性急なんじゃねェのか? あの女神サマの自虐風自慢が正しけりゃあ、一応数日は猶予があンだろ?』
いつの間にやらノーパソに鞍替えしていたハーシュノイズが眉を顰めた。何をどうやったのか、俺の断片的な話から、2Dだか3Dらしきハーシュノイズのバストアップアバターが再現されている。赤上さんの手腕だろうか。
左右で入れ違う眉の動きといい、への字に曲がる口の具合といい、随分と器用に表情を反映している。そのまま動画配信者として活動できそうな程の出来だが、最近のアイドルプロデューサーにはそれくらいの技術が必要なのかな。
とまあ、そんな意外な技術力に驚きながらも、俺は液晶の向こうの神位魔術師に回答する。
「それなんだけど、アーツの話だと、地母神は研究にのめり込むと徐々に作業ペースが上がるらしいんだ。当初は一ヶ月って言っていたのが、気付けば十日かそこらで目標達成している、なんてことも前にはあったんだと」
「成程ねぇ……まあ、単純に不意を突く意味もあるよな。昨日の今日で突貫されたら面食らうだろうし」
俺の発言に補足してくれた赤上さんの言葉に頷いて答える。むしろ、アーツ的にはそっちの方が大きい狙いのようだった。
向こうの準備が整う前に突入する……戦術的にはよくある王道で、地母神も当然それは予想しているだろうが、かといって大人しく待ってやることも無い。
「それは承知したが……本当に、君たち二人に任せてしまって良いのか? 篠崎君」
「ん……いや、まあ……はい?」
『相ッ変わらず煮え切らねェなオメェはよ! 俺に任しとけ! くれぇ言えねェのか!?』
言えるかバカ。こちとらただのドルオタ高校生ぞ。
そう、実際に口には出さずとも表情で伝わったようで、愉快にゲラゲラと笑うハーシュノイズ。お前の方が緩み過ぎてんじゃないんですかねそれは。
「そうか……俺はそっちに関しちゃ、社長や瑠奈から話を聞いただけで門外漢だからな。あまり手助け出来るところは無いか……すまん」
「うむ。それに、事を構える相手があれほどともなると、下手に私たちが動いたところで足手まといになってしまう。心苦しいが、任せるほかないようだ」
赤上さんと祭賀さんが、共に渋面を作ってやるせなくかぶりを振った。俺は、まあまあ気にせず、という意図を込めて苦笑で返す。
聞いた話だと、祭賀さんの有効な戦闘手段である心因魔法は、発動には魔素供給係と心素供給係の最低二名が必要になるうえ、差し迫った状況下では予めストックしておいた心因魔法陣の数だけ、という制約がどうしても存在するそうだ。
そのストックも、先の炎闘神との戦闘で相当量を消費してしまったらしく、炎闘神以上の実力と目される地母神が相手ともなると、前線へ参加するのは厳しい、ということだろう。召喚経験も無い赤上さんは言わずもがなだ。
「カッコ悪いな、いい大人二人がこんなじゃあ……何か手伝えることがあれば、何でも言ってくれよな!」




