夜天を司る神②
波動が相殺され、発動体だった夜剣がカラン、と力なく屋上の床に転がる。
よし、上手くいった!
相殺時に発生した爆風に煽られ、バランスを崩してしまい、体勢を立て直す。
闇夜神路単体では、心技がメインの俺に対し効果が薄いことは、天空神も承知済みだったのだろう。そこで、虚を突き、かつ個々で放つより威力が増す今の合体技を発動する、という作戦を採用したんだろうが……
リラと二人だけでも、交錯する勇気は発動出来る。勿論、ディアナも含めた三人のときより威力は劣るだろうが、それでもただの心技に押し負けるほど、今の俺たちはヤワじゃない。
「誰が甘いっての――」
姿勢を正し、拓けた道を天空神目掛け駆け出そうとした俺の目に、誰もいない屋上の平面が映った。
一瞬、思考がフリーズする。
そこに、心技の向こうにいたはずの天空神は、どこへ?
凍り付いた脳内を余所に、膠着した俺の視界が、先程まで天空神が立っていただろう空間に残る、僅かな白い魔素の名残を捉えた。反射的に、いっそ機械的に、その魔素が揺らぐ方向へ視線を泳がせる。
俺の右側。屋上の床も無い、街中の中空に、天空神が浮かんでいた。その肩口には、燕型の波動を相殺する前、俺の弾き飛ばした夜剣が二本。
馬鹿な、たった今心技を相殺した方の夜剣は、ここに転がっている。
そこまで思考した時に、思い当たる。
「心身気影か――!」
俺の叫びに答えるように、天空神が、変わらぬ冷たいまなざしを湛えたまま呟いた。
「気影に分かつ虚突曜進」
次の瞬間、天空神の肩口に浮かんでいた夜剣が、その身に絶大な夜色の波動を纏い、凄まじい突進力で射出された。
速い。ソウルドライブでの迎撃が間に合わない。
いや、間に合ったとしても、相殺出来て片方だけ。もう片方が防げない。
どうする。
思考に続き、体までもが膠着する。この場を退ける手段を導き出せない。
先程の燕型の波動に比べ、更に早く飛来する二本の夜剣。その接近とは反比例して、走馬燈のように引き延ばされた知覚の中、俺は必死に頭を回転させた。かつて何度か経験したことのある、思考が加速するような経験。
ダメだ、諦めるな。まだ、まだ何かできることがあるはず。
考える。考えろ。考え続けろ。
ディアナを取り戻す。地母神をとっちめる。そして、その次。
そう、その先に待ち受ける、ライブに立ち会うために――!!
決意を新たにした瞬間、全身に力が漲る。引き延ばされた知覚が、加速していた思考が一気に集束して、怒涛の勢いで流し込まれた情報が、一つの解を導き出す。




