夜天を司る神①
――なん、っだそりゃ!?
ディアナの正マスターである俺でさえ初見の心技を、眉一つ動かさず放った天空神の所業に、驚きを隠せない。
心技って、マスターと響心魔装の絆が深まったら威力が上がったり、新しい技が解放される、みたいなものだと思ってたんだけど、俺との絆より、天空神との関係性の方が強いってことだったのだろうか……だとしたら結構、いや相当ショックなんだけど……
見慣れない、しかし己の放った経験がある心技より、遥かに高威力を秘めていると分かるソレが飛来するまでの僅かな時間、俺はそんな明後日の方向に思考の舵を切っていた。しかしどこかから、耳馴染みのある鈴を転がすような声に、『そ、そんなことはありませんっ! 今はそれよりも、迎撃に集中してください!!』と叱咤されたような気がして、俺はやむなく気を取り直す。気のせいかもしれないが。
迫り来る夜色の波動を改めて見据える。名前や形状から察するに、闇夜神路と黒刺夢槍の合体技みたいだ。
平常時は、打撃と斬撃の効果を持ち、魔素を拡散させ魔法の相殺が可能な心技である前者と、内包する心素量が増加したことで強固になり、貫通力と威力が強力になった心技である後者。
天空神が放った心技は、その両方の特性を併せ持ち、なおかつ純粋な攻撃力も増大しているのだろう。目に映る魔素の揺らぎ――心素の代替として使っているようだ――を見て俺はそう判断し、瞬時に対策を決めた。
「リラ!」
『……ん……!』
夜剣の一本を受け止め続けながら、右手の短剣に心素をこれでもかと込める。
そのまま、接近する燕の形をした黒い波動に狙いを定め、鍔競り合っていた夜剣を思い切り押し返す。
声を、重ねる――
「『交錯する勇気!!』」
桜色のラインで縁取られた夜色の十字波動が、鍔競り合ってた夜剣を弾き飛ばした。押し戻された夜剣は、その背後から迫る燕型の波動に飲み込まれ、ダメージは無いようだがそのまま後方の、天空神の方へと舞い戻っていく。
その直後、本命である黒波動が、俺たちの放ったソウルドライブと正面から激突した。
今、だ!
接触の瞬間、俺は発動済みのソウルドライブに、追加の心素を送り込んだ。発動直後に比べ、一回り大きさが増したように見える十字波動が、黒波動よりやや優勢になったように思える。
闇夜神路と黒刺夢槍の特性を併せ持つのなら、迎撃や防御の魔法を相殺しつつ、強力無比な黒槍をぶち込める、という中々厄介な技であるのだろう。
しかし、生憎と俺が放つ技は、そのどれもが心技だ。魔法ではない故に、相殺という闇夜神路の強力な特性も、これといって効果は見込めない。
だったらこの波動は……ちょっと強いだけの黒刺夢槍だ!
力対力の勝負なら――
「お……おおおぉぉっ!!」
一際力を込めた俺が思わず叫んだ瞬間、拮抗していた波動同士が互いの身を震わせ合い、凄まじい爆風を伴ってその場で霧散した。




