相棒って本当に頼りになる⑨
「……『やあやあユーハ君。旅は順調かな? 我らがエーテルリンクを救わんと旅立つ君に、僕からちょっとした贈り物だ。この銀国紋は、それを持つ者が紋章国の招きし異世界人であることを示す、手形のようなものだ。特異点の管理国に立ち寄る際、入国時の身分証代わりになるうえ、立場のある人間に見せれば滞在している間の衣食住を融通してくれるだろう。そういう決まりになっているからね』」
こほん、と一つ咳払いののち、ディアナが紙片を読み上げる。
それはまた随分と便利なものだ。まあ、それくらいのサポートがなければ魔晶回収なんて厄介ごとを引き受ける輩がいなかったのかもしれないが。
勝手に呼び出しておいた挙句、飯代宿代も自給自足しろなんて、ブラック企業もびっくりな労働環境だものな。
「『こいつは本来、紋章の板部分だけだったんだけど、あんまり飾りっ気がないんで、チキュウのアクセサリー風に鎖をつけてみたよ。鞄に付けるなり腰元に下げるなり、好きに着飾ってくれたまえ!』……とのことです」
余計なお世話だ馬鹿!
役立つ道具の登場が続いて、せっかく奴の評価を少し見直し始めていたのに、ここにいたらまた蹴りの一つもくれてやっていたかもしれない。
……まあともあれ、異世界での身を立てるものがあるのはありがたい。あの胡散臭い魔術師の言に素直に従うのは癪だが、大人しくバッグのファスナーツマミに取り付けることにする。
「ところでマスター。お腹はお空きではございませんか? おそらくですが、この世界に来てからまともに食事を摂っていないのでは?」
そのディアナの言葉でようやく自覚した。そういえば、確か何も口にしていない。召喚から魔晶回収、出立まで矢継ぎ早に行動していたせいだろう。思い返せば、あの魔術師に召喚されてからまだようやく丸一日経過したか、といったくらいなんだな。
ルナちゃんのライブに間に合うには、いや、ライブのためのコール練習などの準備を考えれば何日あっても足りないことはないが、悪くないペースだ。この調子で進みたいところだな。
一人で腕を組みうんうんと頷く俺を見て、ディアナが訝しそうに首を傾げる。
「……マスター? 聞いておいでですか?」
「ああ悪い。聞いてる聞いてる。そうだな、ディアナの取ってきてくれた果物でも食うか」
「はい。そういたしましょう。平時から空腹とあっては、またぞろ響心率に悪い影響を及ぼしかねませんから」




