決戦前夜②
『天空神サマはまァだだんまりを決め込んでやがンのか?』
「みたい、だな」
話し合いの方は芳しくなかった。
俺とハーシュノイズでは、神界への、もっと言えば地母神への知識や情報がとにかく足りない。そのどちらもを併せ持つ天空神がいて初めて、議論を先に進めることが出来る。
『…………』
しかし、俺の身の内に宿る筈の神は、俺たちが路地から脱出した時からずっと口を噤んだままだった。
ハーシュノイズはだんまりを決め込む天空神への憤りが募っているようだが、俺はそれよりも、沈んだ顔でシャワールームへ向かった女性陣の方が気になって仕方がなかった。
その気持ちは分かる気がする。なにせ、顔見知りのあんな……衝撃的な光景を目の当たりにしたのだから。
俺も今でこそこうして落ち着いていられるが、改めてあの光景を思い浮かべようとすると、胃の中がひっくり返って口から全部吐き出してしまいそうになる。それほどまでに、あの……サンファの最期は、俺たちにとってショックが大きかった。
そしてそれは、アイリスが一番衝撃を受けていたようだった。
友人と呼べる人間の数が片手で足りそうなくらい人間関係には自信の無い俺だが、それでもはっきりとその胸の内が分かるほどに、金髪の少女は青ざめた表情をしていた。
サンファは……俺たちにとって、実に複雑な関係性の人間だった。
俺を異世界に呼び込んだ張本人にして、当初、俺や祭賀さんらをはじめとする異世界人全員を、己の計画の一部と組み込み、利用しようとした黒幕でもある。
異世界エーテルリンクにおける最高峰の魔術師たる神位魔術師の一人であり、相棒であるディアナの精神を支配して俺の命を狙い、ゆくゆくはあの世界全てを支配下に置こうとした。
結果、その目論見は失敗に終わるのだが……唐突に思いついた俺の一存で地球へ共に転移することと相成り、そのままなし崩し的に数日寝食を共にし、遂には、ルナちゃんの初ライブさえも一緒にした。
一度は生死をかけて戦った相手。それと同時に、心から願った舞台へ共に参戦した相手。
一言に仇敵と表現するには、どこか躊躇してしまいそうな関係だったと思う。
……微妙に憎み辛い性格の奴でもあったしな。
そんな人間が圧倒的な力で蹂躙される様を目の当たりにしたら、誰だって意気消沈する。
沈んだ表情で会議室を後にしたアイリスのことを見た俺は、隣の相棒にすかさず目線を送った。こくりと頷いたディアナは、そのままアイリスに寄り添う形で部屋を出て行ったのだが……上手くフォローしてくれていればいいんだけど。
そんなことを考えていると、会議室のドアがガチャリと開き、祭賀氏と赤上さんが姿を現した。
「待たせたね。早速ですまないが、天空神と、ハーシュノイズ君、だったかな。少し協力してくれないか」




