信じた奇跡を現実へ③
ぶあっ、と、目と鼻の先程の近くから、顔を背けたくなるほどの熱気が放たれている。警戒無く視線を向けてしまったら、目の中の水分でさえ全て乾ききってしまうのではないかと思うくらいの熱量。
単純な魔法攻撃じゃなく、身体に纏うタイプのものに切り替えたのか……!
それも、ただの魔法じゃない。
感じられる威圧感。肌を刺すような、魂の奥から震え上がるような、上位の存在に対する畏怖。
あの時のサンファと、数日前相対した神位魔術師、ジフ・ハーシュノイズと同じ――
俺の思考がそこまで辿り着いた時、赤上さんの声による、炎闘神の言葉が熱気の向こうから聞こえてくる。
「褒めてやるよ、人間――俺に、ここまでの手を打たせたことをなッ!!」
そして、熱気を斬り払うかのような怒涛の勢いで、全身を赤銅に染め上げた炎闘神が地面を蹴った。
その肉体は、先日のサンファと同じように赤銅色の竜麟で覆われていた。
彼の神位魔術師と異なっているのは、鱗の及ぶ範囲が四肢のみに留まらず、全身に及んでいること。纏う焔の量と質が明らかに膨大であり、太陽を背負っているかのような光輪が回っていること。腰から伸びる尾のような形をした溶岩が、二房になっていること。
そして何より、サンファには見られなかった、絶大な神位の力を振るうことによる消耗感が無かった。
自身の司る属性故なのか、それとも、神という上位存在故の許容量の大きさか。
それまで手足の如く振るわれていた槍を、荒々しいながらもどこか高貴さを湛えた、杖術にも似た構えと動きで振るって来る。
呼吸するだけで焼け付きそうな空気で短く息を吸い、俺は夜色の短剣でそれを受け止める。
『――く、っう……!?』
「っ、ディアナ!?」
しかし、受け止めただけで、心身気影状態の相棒がダメージを負ったことが伝わって来た。見ると、短剣の、槍と触れている箇所が赤々と燃え上がり、白熱している。俺は急いで赤銅の槍を振り払うと、次いで振るわれる槍の軌跡全ての回避を試みる。
触れただけで焼け焦げる程の火力を纏った槍が、頭・胸など、常に致命となる位置を的確に狙い撃ってくる。それらを紙一重で躱し、咄嗟に思いついた、夜色の波動を潤沢に纏わせた夜剣で払いのけるが、絶大な熱量との死線が、みるみるうちに体力を奪っていく。
ある一瞬、横薙ぎの斬撃をバック中気味に回避した時、ほんの僅かな時間視界が暗転した。
――酸欠、いや、急性熱中症か……!?
思考が再起動に要した時間はごく僅かなものだったが、その一瞬で十分すぎた。
カツ、と無言で炎闘神が槍を突きたてる。
立ち眩む俺の真下に、巨大な赤銅の魔法陣が展開される。
「円卓炉心・燦」
再起動した思考が、魔法陣を認識する。
その途端、俺の全身を赤銅の結界が覆い、熱し始めた。




