信じた奇跡を現実へ②
『っ、ここを預けます! 少しの間で良い、持ちこたえて下さい!!』
此方の返答を聞くより早くそう言い残すと、天空神の存在感が薄れ、どこかへ飛び去って行くように消えたのだ。その方角は、ちらりと見えた商店街のアーケード方面だったような気がするが。
意図は分からない。しかし、差し迫った今の状況を打破するために違いない。そう確信した俺とディアナは、互いの確信を理解し、二手に分かれたというわけだ。
炎闘神の構え放とうとする魔法の悉くが、ディアナも加わった三少女の歌声の力にかき消され、出現とほとんど同時に形無き火の粉となって崩れ落ちる。
どういう仕組みかは分からないが、アイリスとルナちゃんの合唱にリラのサポート――周囲に散らばり収束することで歌声の多寡をコントロールしてるみたいだ――が合わさると、歌声の届く広範囲への魔法攻撃のような効果が生まれるらしい。敵対する魔術師とその魔法にのみ作用するとは随分とチートな技だが……一体いつ身に着けたのやら。
まあ、相手が神様とかいう存在チートだから、こっちもそれぐらいで対抗しなくっちゃあな!
「闇夜神路!」
「チッ! 人間風情が……!」
赤銅の槍の維持だけで手いっぱいに見えるところに、夜色の波動を撃ち込む。迎撃のための別の魔法がやはり機能しなかったようで、大きく回避行動をとる炎闘神。
その視線は俺と、その後方で歌い続ける少女たちとをせわしなく行き来している。自身の行動を阻む要因には気づいているみたいだな。
俺なんか放っておいてすぐにでも辞めさせたいんだろうけど……当然そんなことはさせない!
再び闇夜神路を放った。炎闘神の目の前に広がるような、幅広の形をとる波動。
それと同時に、夜色の魔法陣を足裏に展開。波動が広範囲故に、回避ではなく迎撃の体勢を取った炎闘神へと、離された距離を一瞬で詰める。
赤銅の槍の乱れ突きを受け、霧散した波動のすぐ後ろから、小回りを意識した立ち回りで炎闘神の視線を釘付ける。
ディアナ達を狙う遠距離魔法はかき消される。近付こうにも俺が邪魔をする。
しびれを切らした炎闘神が、両目をカッと見開いた。
「調子に乗るなよ……小僧ッ!!」
すると、周囲に散らばっていた炎熱が急速に引いていく。家屋の火災は既に引火したことによる自発的な炎だけに留まり、それ以外の全ての焔が、目の前の男性へと集束し始めた。
首の後ろが総毛立つ。先日、夜の校舎の屋上でサンファと戦ったときと同じ感覚。
俺が意識の警戒レベルを上げるか否かといった刹那、炎熱を集束させた炎闘神の魔素が膨れ上がった。




