金・三・交⑤
紅蓮と赤銅の槍が、周囲に火の粉を散らしながらけたたましく打ち合う。
自身で写身と呼んだフレア様とせめぎ合う炎闘神の声音は、聞き間違いでなければ、明らかに弾んでいるように思えた。ようやく手応えのある相手とやり合えそうだ、という喜びゆえなのかもしれない。
紅蓮一色のフレア様は、炎闘神と一進一退の攻防を繰り広げている。
神の注意が逸れ、アタシたちは僅かに戦線から解放される。二つの神焔が吹き荒れる方向を見据えながら、アタシとサイガおじ様は体勢を立て直した。
華灼という名の炎属性高等魔法によるダメージが、抜かりなく痛みを訴えてくる。アタシは身体回復力強化の魔素を全身に宿しながら、気になることを聞いてみることにした。
「おじ様、あのフレア様は……?」
「あれは、正確にはフレア王ではないよ。私と瑠奈があの世界に巻き込まれた折、万一サンファと戦うような局面となった際の切り札として、私とフレア王とで開発した神霊召喚魔法だ」
戦闘用の精霊を呼び出して戦わせたり、囮の人形を創り出して操作する、比較的単純な魔法だよ、とおじ様は語る。ただし、召喚するのは神霊だがね、とも。
召喚陣そのものにフレア様の魔素が潤沢に詰め込まれ、発動させるだけならおじ様の心素だけでも事足りる。しかしそこに追加の魔素や心素を余剰に加えることで、従来の心因魔法陣による強化に上乗せされる形で、更なる強大な効果が見込める……のだそうだ。
その説明を受けてどうにか、あのフレア様は……いや、フレア様の似姿を持った女性は、神位級プラス心因魔法陣の強化プラスアタシの注いだ魔素、という大量の強化を施された、フレア様の姿を模した神霊なのだということを理解する。
なるほど、それだけの強化を受けているなら、炎闘神相手に一進一退と立ち回れるのも納得だ。
本当なら、神本体どころか、その放った魔法を打ち破る力だって無いはずだものね。
けれど……アタシもおじ様も、この一手で勝利を取れるとは思えなかった。
炎闘神は見るからに楽しみながら戦闘を行っている。彼の攻撃を必死に退けようとするアタシたちとは違って、一手一手に全力を注いだような感じでは決してない。まだ相当の余力を残しているに違いないわ。
対し、アタシたちが召喚出来た神霊は、今以上の力量にはなり得ない。今は拮抗しているけれど……きっと、撃ち負ける瞬間が来てしまう。
それまでに打てる手は――
……アタシには一つしか思いつかない。
その手段を実行すべく、離れたところにいる友人へと視線を送ろうとしたとき。
「やろう。アーちゃん」
「……リラも……てつだう……!」
……まったく。いつの間にアタシの胸の内を感じ取ったのかしら。
これ以上ないタイミングでアタシの手を取ったルナとリラに、思わず苦笑する。やっぱりおんなじアイドル同士に、親子じゃあ、考え方まで似てきちゃうのかしら?
両の手を取る少女二人の手を握り返す。
根拠は無い。効果があるのかも果たして分からない。
だけど。アタシたちに出来るのはこれだけだ。
「……何か、考えがあるのかね?」
妙に自信を漲らせた表情のアタシたちに、おじ様が静かに問いかけてくる。
一つだけ、僅かな可能性があるとするなら……炎闘神のあの肉体が、赤上さん本人のものだったなら、効果があるかもしれない。
そんな、可能性と呼ぶのも憚られるような希望を胸に、
『……いく、よー……!』
左手の短剣が、桜色の刃を閃かせて舞い上がり、
「アーちゃん」
右手を握る友人が、強い意志を秘めた瞳で頷き、
「さあ、いっくわよ――!」
応えたアタシは、胸いっぱいに大きく息を吸い込んだ。




