相棒って本当に頼りになる⑦
最悪の場合、この洞穴で夜を明かせばいいにしても、食料に明かり。必要な準備は山ほどある。未知の世界で野営の支度を整えるには、何よりも時間が不可欠だ。
今から用意するのが間に合うだろうか。弾かれたように立ち上がり、遮二無二駆けだそうとした俺を、ディアナの平静な声が呼び止めた。
「問題ありません、マスター。野営の準備は整えてございます」
「えっ」
ディアナが手を向けたほうを見る。洞穴の最奥、俺が眠っていた時に背にしていた辺りに、色とりどりの果物と思われる果実がこんもりと積もっていた。その脇には、同じくらいの量の薪も小山を成している。
「マスターがお眠りの間に集めてまいりました。その間お一人で残すような形となってしまい、申し訳ございません」
「いやいやいや。謝ることじゃないっていうか、むしろ助かるって!」
きっちり九十度に腰を折る銀髪の少女に、慌てて俺は顔を上げるように告げる。
同じことをしたとしても、この世界で食べられる食材がわからない俺では、もっと時間がかかっていたに違いない。
おかげでこの洞穴で夜を明かすことができそうだ。少しでもベロニカへ近づいておきたいのが本心だが、無理に夜間に移動し、魔物の襲撃を受けるなどで足止めを食らっては元も子もない。ここはおとなしく、明日の朝出発することにしよう。
一難去ったことに胸を撫で下ろし、改めて洞穴に腰を下ろす。ディアナもそれに倣った。
そうだ。まだ明るい今のうちに、荷物を確認しておこう。
トレイユを発つ際に魔術師サンファが言っていた。旅の道中役立つものを入れてある、と。
正直どれだけ期待に添うものが入っているがわからないが、何が入っているかわからない荷物を持ち運びたくもない。今のうちに検めておくのが賢明だろう。
俺がこの世界に来た時に比べて少しばかり膨れ上がったスクールバッグを、若干の緊張を抱きながら開いた。
途端、漏れ出した薄青い光が俺の両目を突き刺した。たまらず両手で目を覆う。
「まっぶし!」
「これは……魔導機器の燐光ですね」
ちかちかした両目を瞬かせ、必死に視界を確保しようとする俺の耳に、ディアナの言葉が届く。
つまりあの胡散臭い魔術師は、何らかの魔法で動く機械を俺に持たせて寄越したってことか。
魔導機器といえば、最初にディアナと出会ったときに、彼女が入っていたカプセルを思い出す。
あの施設の中の荒廃した機器たちを思い返すと同時に、カプセルに浮遊していたディアナのあられもない姿も同時に思い返してしまい、慌ててかぶりを振る。




