金・三・交④
この焔は、リラの盾では防げない。一見してそうと分かる威力を秘めている。
赤銅の焔宿す光球が、掌大の大きさに強大な神威を宿す陽炎が迫って来る。
ダメージを負った今のアタシとおじ様では回避もままならない。
その判断はサイガおじ様も同様だったらしく、手帳を手早くめくると、巻末付近のページをまとめて複数ちぎり投げた。
「奥の手を使う……! アイリス君、ありったけの魔素を頼む!」
「……ハイ!」
おじ様の放った手帳のページが円状に広がって、これまでのものよりも遥かに複雑な心因魔法陣を展開する。薄緑色の光を放つ陣へ、身の内に残された全てを注ぎ込むつもりで魔素を放出する。
おじ様の心素とアタシの魔素が注がれていくにつれ、陣が放つ光が大きくなる。
そして、迫り来る神威の焔が陣に触れるか否かといった瞬間、薄緑色の光が目の前を埋め尽くすほどに広がった。
「擬似神霊召喚……『天壌紅蓮』!!」
聞いたことのない魔法の式句だと思ったら、聞き覚えしかないヒトの名前が即座に続く。サイガおじ様の声が響き渡ると同時、にじり寄っていた神位の焔球が、目にも止まらぬ速度の何かに切り刻まれた。
焔球を切り裂いたのは、四方八方から襲来した紅蓮色の刃だった。その身を斬られた焔球は、飛来する速度を落とし、空中で停止する。
次の瞬間、停止した焔球は、その中心を紅蓮の焔槍に穿たれ、跡形もなく霧散した。
その見慣れた焔槍を振るったのは……槍と同じ色の長髪を靡かせる、一人の女性だった。
「フ……フレア様っ!?」
紅蓮一色の全身から醸し出されるのは、先日も感じたものと同じ……炎闘神の系譜たる神位魔術師が放つ神位の気配。
そう。その後姿は誰あろう、今敵対している炎闘神アースガルズの神位を受けた魔術師、フレア・ガランゾ・スプリングロードゥナその人のものに違いなかった。
全身が紅蓮の炎で形成された格好は、イルミオーネ様の話にあった、神装神衣という姿なんじゃないだろうか。
しかし、フレア様は私たちの方を見向きもせず、無言で炎闘神と向き合っている。
……いったいどうなってるの?
致命の火焔をどうにか退けたことによる安堵感と、突如現れた女王への疑問で、頭の中がにわかに混乱する。
そんなアタシの前で、紅蓮色の女性が、鋭い勢いで炎闘神に向かって斬りかかった。
焔槍を持つ右手が、再び目にも止まらない速さで閃き、無数の突きが相対する男性に向けて襲いかかる。
対する炎闘神は、驚きを露わにした表情ながらも、瞬時に出現させた焔の槍を取り回し、全ての刺突を軽やかにいなす。
「こりゃ驚いた……うちの娘の写身か!? おいおい異世界人が扱う代物にしては度を超え過ぎだろ!」




