金・三・交②
ジュウッ!! と激しい音が響き渡って、目の前で大きな水蒸気が立ち昇る。火焔の竜巻群と、アタシたちの放った雪崩とが互いに干渉し合っているのだ。足元には、雪崩が溶けて出来た水が流れ、瞬く間に路地を流れ出ていく。
商店街が近いこともあって、流石に騒ぎになってしまいそうだけど、今はそれは気にしてられない。
そっちに気を取られていたら、きっと、すぐにやられてしまう……!
そんなアタシの胸の内を裏付けるかのように、立ち昇る水蒸気が一気に吹き散らされた。
竜巻群の中の一つが、質量を膨張させて、雪崩を吹っ飛ばしたのだ。足元に広がった雪解け水も、頭上に広がっていた豪雨の雨雲も、竜巻から伝わった焔と熱で一瞬で蒸発し、乾いた地面と青空が再び顔を覗かせる。
晴れた視界に、十個以上はあった竜巻群のほとんどが、今にも消えそうな程に縮んでいるのが見える。
しかし、その中でただ一つ、雪崩を吹き飛ばした竜巻が轟々と燃え盛っている。
その更に向こう。相も変わらず微動だにしない、炎闘神の直立する姿。
「まあまあだな。思ったよりやる、と言い換えてもいい……どんどん行くぞ?」
炎闘神が不敵な笑みを浮かべたかと思うと、残された竜巻が動いた。
周りの消えかけの竜巻を巡るように取り込んで、その身に吸収していく。
先程までは、三角錐を逆さにしたような形状……上方につれて広がっていく形をしていた竜巻が、頭から足先まで一律の太さに変化し、凝縮したようにギュッと細まった。
次の攻撃を察したサイガおじ様が、アタシへ呼びかける間も惜しむように魔法陣を複数展開させた。おじ様の心素に反応して、ちぎった手帳のページから魔法陣が飛び出す。そこへ、アタシも急ぎ魔素を注ぎ込む。
アタシたちの直感が警鐘を鳴らすのを知ってか知らずか、炎闘神がポケットから右手をゆらりと抜き出し、振りかざす。
「火焔集渦・薙」
呟かれた式句に伴い、竜巻がその長大な身を横に倒れ込ませてきた。いや、炎闘神の示す右手に従って、伸びた手足のように自在に動かせるんだ。
最早竜巻でも何でもない、全く別の魔法に思える焔が迫る。
それに対し、おじ様の展開した魔法陣が、氷属性の盾や壁といった防御系の魔法を空中に張り巡らせた。真正面から受け止める形。
が。
「ダメだ。避けろ、アイリス君!」
「っ!」
おじ様の叫び声に、アタシは反射で今いた場所を横に跳び退く。おじ様もまた、逆方向の横サイドへ回避を試みる。
その刹那の直後、空中に複数展開した魔法陣が、そこを通過した竜巻に跡形も無く砕かれた。
一切の痛痒も、妨害による遅延も感じさせず倒れ込む竜巻が、寸前までアタシたちのいた地面を強烈に打ち据える。細まった身に凝縮された炎熱と、高速回転する気流が、堅い材質で加工された地面を砕き、削り散らす。




