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金・三・判⑩

「うそ……」


『…………』


ハーシュノイズ様の言葉をそのままアタシが伝えると、ルナの沈痛な声と、言葉は無くとも伝わってくるリラの悲愴感とが辺りの空気を満たす。あっという間に塗り替えられた重苦しい雰囲気に、呼吸がしにくくなる。


居ても立っても居られなくて、感情のままにアタシは叫んだ。


「アンタ、それを黙って見てたっていうの!? 神位魔術師のくせに!!」


『無茶言ってんなよガキ。今のオレは幽霊ってやつだ。死んだ人間なんだ。テメェの肉体無くしてチキュウに干渉出来る道理が無ェ……神位魔術師なんて肩書があったところで、どォにもなりゃしねェんだ』


「だからって……!」


行き場の無い憤り。どうしようもないもどかしさ。またも叫びかけたアタシの肩を、戸惑いに満ちたルナの手が諫める。


……分かってる。アタシにだってそれくらい分かるわよ。

幽霊……死んだ人たちには、ふつう、生きている人たちの世界に干渉する術は無いんだ、ってことくらい。こうして声だけでも、聞こえてるってことさえ、例外なんだってことくらい。


分かってる。分かってるけれど、叫ばずにはいられなかった。吐き出さずにはいられなかった。


だって、あの二人がいなくっちゃ……こうして、炎闘神から逃げていることさえも、意味が無いじゃない。


どうにも、ならないじゃない――


絶望。その一言がアタシの胸の、いいや、アタシたち三人の心を塗り潰しそうになった瞬間、ハーシュノイズ様の言葉が続いた。


『決めつけンな、後輩。野郎が、早々簡単にくたばるタマじゃねェってことくらい、オマエだって分かンだろ』


「それは……」


そうだけど。でも、事実、地母神の魔法にやられるところを見たっていったじゃないの。


『オレが見たのは空間の穴に奴らが呑み込まれるトコまでだ。地母神共のやり取りから、天空神がガキ共と一緒に亜空間に消えたことは推測出来る……なら間違いなく、そのまま終わるワケねェだろ』


「…………」


今の声音でアタシは気付いた。その場にいて、ユーハたちがされるがままになっていた場所に立ち会って、何も出来なかったこの人が一番歯痒い思いをしているんだってことを。


『きっと! きっと奴らは戻ってくる! それがいつかは分からねェ――この二日はその兆候は無かった――が、その時が反撃のチャンスであり、オマエらの使命は、それまで生き残ることだ! そうだろォが後輩!!』


「……っ!」


握り締めた手から血が滲むかのような、噛み締めた唇が裂けてしまうかのように絞り出された激励。


そんな。そんなの。


言われるまでも、無い。


そうだ。それこそ、言われなくたって分かってる。


あの二人が……特に、チキュウ人の少年が。ルナも含めた、アタシたちのライブ予定が控えたこのタイミングで、やられるがままにされてるわけがないって。そして、もう一人の魔装の少女もまた、そんな主に必ず付いて行くに違いないだろうって。


沈みかけた気持ちが再び脈動するのを感じる。

右手に握る少女の手が再び熱を持つのが分かる。

左手の短剣が決意を新たにするのが伝わってくる。


『そォだガキ共! 今は生き延びろ! アイツらが……お前たちの希望が戻るその時まで!!』


「――アーちゃん、あそこ!」


ハーシュノイズ様の(とき)の声に、消えかけた(ともしび)が再び目に宿ったアタシたちの瞳に、地上で手を振るとある人影が映る。


「……サイガおじ様?」

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