金・三・判⑨
『なァんてくっちゃべってる場合じゃねェ。さっさとこの場を離れんぞ! どォせすぐに気付かれる……少しでも距離を取りやがれ!!』
「わーかってるわよ、って!」
先輩……ハーシュノイズ様の声に従い、アタシはルナの手を引きながら中空を駆けだした。
踏み出す足の真裏に風属性の魔素を集束させ、踏み切る瞬間と同時に爆発。合わせて背後から追い風になるように風を吹かせ、さながら月神舞踏気分で空の上を走っていく。
「あ、アーちゃん、誰か近くにいるの!?」
戸惑いながらもアタシに合わせて走り続けるルナが、どこかおかしなイントネーションで問いかけてきた。命綱も無い中、地上より遥か上空にいるんだし、それも無理ないわよね。
その問いにアタシは、自身の予想も含めたうえで、ハーシュノイズ様にも聞かせるつもりで手短に説明した。
今恐らく、ジフ・ハーシュノイズ様の幽霊が間近にいること。アタシがエアリベル様に神位名を授かったことで、その声だけが知覚できるようになったのではないかということ。更にその声を知覚するには、アタシ一人では不可能で、ルナとリラと手を繋ぐなどの接触が必要らしいこと。
『なるほどねェ……金髪娘、確かにオマエに与えられた魔素量は大したことねェ。お前ひとりじゃ何も感じ取れないのはそのせいだろォな。ンで、オマエら三人が何らかの繋がりで接続することで、半人前ともう半人前分を補い、一人前分の知覚を有し、縁ある風雅神の神位繋がりってことで、ようやく声だけが聞こえる、と』
「何らかの繋がりって……何ですかそれ?」
『ンなモンオレが知るワケねーだろが。落ち着いてからテメェで考えやがれ』
気になる部分を即否定され、げんなりと肩を落とす。左手の短剣から、宥めるような慰めるような感情が伝わってきて、アタシは苦笑しながら気を取り直した。
「それで、どーいう状況なんですかこれは? ていうかアナタ、ユーハたちと一緒なんじゃなかったですっけ!?」
『……あのガキは、地母神の天穴に呑まれちまッたよ』
「ハァ!? 何よソレ説明しなさいよ!!」
唐突に知らされたあまりの事実に、アタシは思わずその場に立ち止まって大声を上げてしまった。
ハーシュノイズ様の声が聞こえないルナが、心配そうな表情でこちらの様子を窺っている。
ハーシュノイズ様の声は訥々と語った。
エーテルリンクを脱し地球の神への昇華を目論んだ地母神を止めるべく、彼と共に天空神がチキュウに来ていたこと。
アタシたちと別れた後、ユーハとディアナが天空神を捜し出し、隠れ潜んでいたサンファ、様と戦闘になったこと。
そして、決着がつくかと思われた瞬間、横槍を入れた炎闘神と、地母神の登場により……二人が、チキュウともエーテルリンクとも知れない亜空間に、呑み込まれてしまった、ということを。




