相棒って本当に頼りになる⑥
「ふあぁ、ぁ……」
夢を見ることもなく眠りから覚めた俺は、ひんやりとした洞窟内でのっそりと身を起こした。
入眠時の急激な眠気はどこへやら、今は脳にかかった靄が晴れたようにスッキリとした気分だ。
今からまた霊山に入って首長竜と相対しろって言われてもこなすことができそうだ……もちろん、もう二度とやりたくはないけど。
軽く身体を伸ばしたのち、半ば放置する形になってしまった相棒の姿を探す。
眠る前は俺の隣でスマホを覗き込んでいたはずだが――
「……何してんの、ディアナ」
「マスター、お目覚めになりましたか。ご気分はいかがですか?」
「うん、ずいぶん良くなった……じゃなくて、その、何してんの。俺の目がちゃんと覚めているなら、踊ってるように見えるんだけど」
目を向けた先には、俺が眠りに落ちた時よりやや離れたところで、一心不乱にステップを繰り返すディアセレナの姿があった。
洞穴の床に置かれたスマホに視線を注ぎつつ、なかなか激しい動きを繰り返している。デコボコとした床に足を取られやすいのか、どこか覚束ない足取りだ。
ディアナがステップを踏むたびに、彼女の長い銀髪がふわりと宙に舞い、洞穴内のやや暗い空気を一瞬明るく照らし出す。
どこかで見たことある振り付けだな、と思ったら、やっぱりルナちゃんのMVの振り付けと同じだった。
「はい、その認識で間違いありません……私、彼女の歌と踊りに感銘を受けました! 自身でも同じようなパフォーマンスができないかと、こうして修練している次第なのです!」
えっマジか。ほんのひと眠りした間にここまで熱心なファンを獲得するとは。さすルナと言わざるを得ない。
スマホから流れていた音楽がやみ、MVの再生が終わると同時に、ディアナも踊りを止めてこちらへ戻ってきた。
激しいダンスをこなしていたはずなのに、息切れこそあれ表情に疲労の色は微塵も見えない。
常の声音で「ありがとうございました」とスマホを俺に差し出してきた。PVのリピート再生を止め、ふとスマホの時計を見る。
「げっ! もう四時!?」
焦って洞穴の外を見ると、山嶺を夕焼けと思しき赤い光がノスタルジックに照らし出していた。この世界の時間軸は、どうやら地球とそう変わらないようだ――じゃなくて!
マズいぞ! ここはベロニカへと続く山脈群のど真ん中。周囲に集落もなく、宿泊できる施設どころか、夜露をしのぐ建物さえ存在しない地域だ。
しかも、魔物が多数出現すると言われる国外の世界。夜間の危険は計り知れない。




