金・三・判⑦
「アーちゃん!! 大丈夫!?」
「平気よ。ちょっと引っかけただけだから」
即座に立ち上がったルナが駆け寄ってくる。その声に応じながら、アタシは荒れた呼吸を落ち着けようと懸命に息を整えた。
……一つも、相殺出来なかった。
リラと協力して、更に、せっかく授かった神位の魔素を相当量注ぎ込んだっていうのに、出来たのは矛先を逸らすことだけ。アタシの持つ魔素が少ないことだけが理由じゃない。
純粋な魔法の威力。それを形成する魔素の純度・練度の高さ。
間違いない。アカガミさんは、いいや、アカガミさんの姿をしたあの人は……!
『そォだ、金髪娘。アレはテメェらの知るチキュウ人じゃねぇ。奴はエーテルリンクの神。炎と戦を司る神。炎闘神アースガルズだ』
脳内で、先程聞こえた男性の声が再び響く。
やっぱり、そうなのだ。
半人前だって一応神位級の魔素。そこに、ユーハの心素有する響心魔装たるリラの手も借りたさっきの迎撃は、神位魔術師の放つ魔法と遜色ないレベルだったハズ。
それでどうにか抗し得るくらいの力を持つなんて……神様じゃないと、逆におかしいわよね。
相対する男性……炎闘神は、もう隠すつもりも無いらしく、その身から溢れる威圧感をますます強めている。
今の攻防で分かった。炎闘神はアタシたちを殺すつもりで来てる。
こちらにはそれに抵抗できる手段が、絶望的なまでに限られてる。
長期戦になったら、ううん、少しでも向こうが全力に近い力を出したら……その瞬間に終わる。
『今は逃げろ! テメェらじゃあ、野郎には敵わねェ!!』
……言われなくってもそのつもりよ!
「ルナ! リラ!」
「っ、うん!」『ん……!』
短く呼びかけ、ルナの手を取る。アタシとルナの全身を、風雅神の魔素で底上げした風属性の魔素を纏わせ、思い切り駆け出した。
「……半人前、お前の仕業か? ルナが、神である俺の未来まで見通せるようになったのは」
小さい呟きと共に、赤銅の焔から成る、大小さまざまな刃物が、炎闘神の周囲の空間を埋め尽くした。出口に向かうアタシたちに向かい、焔の鎌が、斧が、鋏が飛び掛かってくる。
近付く刃物をリラの桜鏡が逸らし、一部をアタシの放つ氷属性の魔弾で速度を落とす。あまりの物量に視界が狭まるが、
『その調子だ後輩ッ! どういう理屈か知らねェがオレの声が聞こえてんだろォ!? ならそのまま進みな! っと、迎撃は忘れずになァ!!』
キンキン響く先輩の声が進行方向を導いてくれる。アタシは魔素の感知と、その迎撃にだけ集中して、あとはルナと共に全力疾走に集中すればいい――
『ッ!! ガキ!! 前だ!!!』
「っ!?」
左方の斧を後ろへ受け流した途端、先輩のかつてない大声が轟いた。すぐさま警戒方向に向き直ると、
「じゃあ、あばよ」
そこには、赤銅の槍を振りかぶる、炎闘神の姿。
一本を握り締め、背後と上空に、その全面を埋め尽くすかの如き圧倒的物量の槍達が控え、撃ち出される。
『――させ、ない……!!』
アタシの鼻先まで迫った赤銅の槍。今にも顔面が消失しそうなほどの熱量の槍とアタシの隙間に、桜色の破片が割り込んだ。




