金・三・判②
「あっ、プロデューサー!」
声を張り上げていた人物は、ルナのプロデューサーである、アカガミさんだった。
先日と同じ勤め人の正規服――スーツと言うらしい――の姿で、こちらに向かって大きく手を振っている。
「お帰り! お疲れ様!! 迎えに来たんだ、事務所に行こう!!!」
「ちょ、ちょっと声が大きいですよ。分かりましたから抑えて……!」
人気の無い住宅街では大きすぎる声量でアカガミさんが叫ぶ。アタシは、遠目には見えないかもしれないと思いつつも、人差し指を口に当てざるを得なかった。
魔術師同士の戦闘による惨状、なんてチキュウの人には分かりっこないだろうけど、それでも封鎖された公園に入ってるところが見つかったら騒ぎになってしまう。誰にも気付かれない内に立ち去らないといけないのに、そんな大声だと誰かに聞かれちゃう。
まさかそれが分からない、なんてことは……無いと思うんだけど。
「じゃあ、行こう? アーちゃん、リラちゃん」
ルナが振り返り、アタシとリラに向かって手を差し出した。
アタシは頷くと、隣のリラの手を握る。
「……ん……いこー……」
「そうね――」
そうして、一歩公園の入口へと踏み出した時だった。
――て! ……くな! ……――!
「……っ!? なに今の……!?」
耳の中で、頭の中で、誰かの声が響いたような気がした。
踏み出した足を止め、不審な顔のまま周囲を見回す。
けれど、公園にはアタシたち以外の人の姿は無い。
「アーちゃん? どうかしたの?」
「今、誰かの声がしたような……」
ついさっきのエアリベル様のときと同じように、リラやルナには聞こえていないみたいだ。
二人共、ピンとこない表情で眉を顰めてる。
……気のせいだったのかしら。
エアリベル様のときと違って、ここには他に誰もいないし。
「ううん。気のせいだったみたい。行きましょ」
「そう? ならいいんだけど……」
ルナが、心配そうに手を取ってくれた。心配いらないと笑顔を見せて、今度は自分が先導するように足を踏み出す――
『――クソッ、行くんじゃねェって言ってんだろガキ共が!! ……ッて、聞こえちゃいねェんだろうけどなァ!!』
「……は!? ええええ!?」
「……かーさま……?」「アーちゃん!?」
アタシの真隣でリラとルナが驚愕の声を上げる。けれどアタシは、さっきよりも明確にはっきりと聞こえた声への驚きでいっぱいで、二人に反応することは出来なかった。
男の人の声だ。間違いない。過去に聞いたことのある人の声では無いけれど、確かに聞こえた。
耳に手を添えて集中してみる……けど、今度は聞こえない。
さっきはどうしてはっきりと聞き取れたんだろう?
……リラとルナの手を取ってたから?
やってみる。耳に添えていた両手で、それぞれ左右の二人の手を握り締めた。
二人の怪訝な表情――リラはいつもの眠たげな表情でいまいち分かんないけど――は、ひとまず置いといて。
すると、
『おッ……なんだ、気付いたのか? いいぞ。そのままあっちの方の出口から逃げやがれ……チッ。なんでガキ共だけで戻って来やがったンだ。あのジジイや天壌紅蓮がいりゃあなァ!』
聞こえる。やっぱり、聞き間違いじゃない。
随分口の悪い男性の声が、聞こえてくる。




