異世界(の神様が地球に)転移⑧
下手をすれば、サンファや地母神どころか、遠い未来や遥か過去に出てきてしまう可能性があるわけだ。地母神らの企みを止めるために脱出するってのに、それじゃ本末転倒。アテも無く闇雲に突破するのは危険すぎる。
天空神は、俺たちがサンファたちとやり合ったあの夜と学校に、限りなく近い時空線で帰還出来るようなポイントを捜している、ということらしい。同じ目を持つ俺が周囲を見渡しても、代わり映えの無い暗闇が見えるばかりなので、ここは任せるしかない。
しかし、どうやらそれは難航しているようだった。
『…………』
しばらく無言の状態が続いたかと思うと、生命回路を通して、ほんの僅かな焦燥感らしき感情が伝わって来た。異世界においては同列である筈の創造神をもってしても、この空間を脱する点を見極めることは難しいのか。
そしてそれは、現在の地母神が、天空神よりも上位の力量を有しているということを、暗に証明する事実でもあった。
何か……何か、天空神の手助けになるようなものは無いか。
一瞬の気配でも、針の先ほどの小さな光でもいい。少しでも道を指し示すきっかけになるようなものがあれば――
本来なら、それこそ祈る先は神相手なのだろうが、俺はどことも知れぬ虚空に向けて、そう願った。
それが、届いたのだろうか。
――――っ――…………――――!!
「っ!」『今の音は!』
俺たちの行く手を埋め尽くす闇の中、その一切を斬り払うかの如き旋律が、耳に届く。
『っ……! こちらです!!』
天空神の指示とほとんど同時に、俺は闇の中を駆け出していた。夜剣に込める心素はそのままに、足裏に夜色の魔法陣を展開し、空間の流れに逆らって跳躍する。
それに伴い、耳に聞こえる旋律は徐々に大きくなり。
胸の奥に灯った熱もまた、それに応じて強くなる。
脈打つ鼓動が激しさを増していく。
あの時と同じだ。かつて、エーテルリンクにおいて、サンファに操られたディアナの手にかかり、俺が心神喪失状態に陥ってしまった時と。
精神世界という名の闇を彷徨っていた俺を導いてくれたのもまた、この歌声だった。
そして、その時共に道を歩んでくれたのは、道に迷う俺の手を引いてくれたのは、彼女だった。
二つの導きを示した少女らの声が、その旋律の中に桜色の彩りを添え、闇を越えて俺たちの下へ届く。
『そこを!!』
とある地点に到達した時、天空神が声を張り上げた。
直感で分かる。この向こうにみんながいることが。
「ディアナ!」
『はい、マスター!』
魔法陣を踏み切って跳んだ。果てなき無限に見える闇の中、天空神の指し示した、少女らの歌声が最も強く響いてくる一点に向け、夜剣を振りかぶる。最高潮に高まった心素が一層の輝きを増して煌めく。
ソウルドライブ。
「『交錯する勇気!!』」
星の煌めきを内包する波動が、狙い定めた一点に向けて迸る。
漆黒の空間に、凄まじいまでの衝撃が響き渡り……一筋の、亀裂が生まれた。
亀裂は、大樹の枝葉のように瞬く間に広がり、
『――今です!!』
最後の一押しとばかりに放った跳び蹴り気味の一撃で、その一点が砕け散った。




