異世界(の神様が地球に)転移⑤
「……いつから、だ?」
『アースガルズがエーテルリンクから身をくらませたのは、ほんの数ヶ月前のことです。天壌紅蓮は、心魂奏者と違ってあまり主神に頼る人間ではなかったので、発覚が遅れたようですね』
数ヶ月前。俺が、ルナちゃんと初めて出会ったのが、今から八ヶ月前くらいだから……その僅かな期間の内に、炎闘神は、地球にやって来ていたということになる。もしかしたら、俺がサンファに召び出されたのと入れ替わりになっていたのかもしれない。
彼と接するたびに、どこか情緒不安定に対応されたことを思い出す。今にも土下座しそうな程の謝意を示したかと思えば、こちらの返答を聞くなりその態度を翻して、まるでそんなことなど無かったかのような様子になったりとか。その前後にしていた会話の脈絡を無視した話題をぶち込むことが多々あったりとか。
俺の知る、ルナちゃんのプロデューサーとして、商店街でCDを販促していた快活な青年の姿とは、どうにも結びつかなかった。
それは、精神が変わっていたから。
記憶に残る人物と、違う存在が中に入っていたことによるズレがあったせいだったのか。
「炎闘神も、地母神同様、永遠の命を求めて手を組んでいるのでしょうか?」
『おそらくは。アースガルズは戦好きですから、不老不死を得て永遠の戦闘を楽しみたいのでしょう。ただ、彼は戦好きではありますが戦闘狂ではない……それ以外のことが目に入らなくなる程愚かではない。赤上という人間の肉体を得た後も、周囲の人間を誤魔化せるよう振舞うくらいはしたでしょう』
一番に気付かれそうな、ルナちゃんや祭賀氏をも欺けるように、慣れない演技に心血を注いだのだろうと天空神は語る。
『とはいえ、元々はそういった搦め手が得意な気質ではありませんからね。貴方が、記憶の中の彼と違和感を覚えたというあたり、近頃は演技への注力も抜けていたと思われます……終わりが、近いのでしょう』
「終わり……?」
『今我々がいるこの空間……ここを、まだどこにも成れていない世界、と話しましたね?』
確かに、そんなようなことを言っていた気がする。
どういう意味だかさっぱり分かんないけども。
『神とは即ち、世界の管理人。管理する側には当然、そのための空間……別の世界が存在する。世界に何かトラブルが起こった時、それを修正するために』
「……人間の生活してる世界の他に、神様専用の世界があるってことか?」
『その通り。それを神界と呼びますが、今我々がいるこの空間こそ、エルデアースが地球における神界として創り上げようとし、成りそこなった世界なのです。その時はまだ、彼女は地球の神ではなかった故に失敗した。しかし、ならば現存する神界へ到ればいい、と彼女は考えたのでしょう』
「チキュウの神々が既に存在している神界へ向かおうとしていると?」
『そうです。地球の神界に至るためには、どうやらそこへ続く門を開けなければならないようですが……その門をこじ開けるための鍵を造り出せる素材を、既に彼女は手にしてしまいました。あと数日もすれば、エルデアースとアースガルズは地球の神界へと至り……この世界の神となるでしょう』
地母神と、炎闘神の目的が達成される。
すなわち、終わりが近いと、そういうことなのか。




