異世界(の神様が地球に)転移④
「それって、可能なのか? 地球の神になれば不老不死になれるもんなの?」
『それは分かりません……確証があるわけではない。しかし最低限でも、神として、ただの人間よりも遥かに長い、雄大な時間を生きることが出来るでしょう。仮にこの試みが空振りに終わっても、その時間が尽きるまでに新たな別の世界を捜して、また同じことを繰り返せばいい』
サンファが異世界転移の魔法を発明したことで、異なる世界に行けるようになった地母神が、かねてから企んでいたことを実行に移したのだろう、と天空神は言う。
俺は、寝耳に水の真実に、頭を抱えながら記憶の中のフィリオール先生の様子を思い返した。
「……そんな大それたことを考えてるようには見えなかったんだけどな」
そのどれもが、大人にしてはお茶らけているというか、独特の雰囲気を持つ変わったな先生だなと思わせるようなシーンばかりだ。
どうにも、神になるとかどうとかいう、スケールの大きい話と結びつかない。
『甘いですね』
しかし、そんな俺の胸中を天空神は一喝する。
『あの人は、それが自身の求めるもののために必要であれば、どんな犠牲であろうと厭わない気性の人物です。貴方が今想像した一面は、あくまで彼女の見せる顔の一つであるにすぎない――』
これは仮の話だが……もしも、地球の神へと昇華したことで、多くの人間の命を犠牲に超長期間の生命を得られる理なぞ知り当てたりしたら……間違いなく、エルデアースはそれを実行する。
それが、今まで自分が接し、仲良く過ごしてきた人たちを含めるものだとしても、一切の躊躇無くその術を行使するだろう。そう、天空神は続ける。
一瞬、多くの血だまりの中高らかに笑う、狂気に染まったフィリオール先生の姿を空目してしまった俺は、思わずごくりと生唾を飲み下した。想像だっていうのに、一気に気分が悪くなる。そんな未来、考えるだに恐ろしい。
『忘れてはいけません。彼女は……いいえ、彼女たちは既に、自身と地球とを繋ぐための楔として、無辜の民を犠牲にしているのです』
「彼女たち、って……っ! そうだ、赤上さん! 赤上さんは一体何者なんだ!?」
俺のその問いに、天空神はすぐに答えなかった。
サンファとの戦闘時、突如乱入してきた、ルナちゃんのプロデューサーたる男性。
実際のところ、彼について思い浮かぶ記憶はそれほど多くない。ルナちゃんと初めて出会った時、その隣で共に彼女のCDを売り出していたときのものと、ルナちゃんのライブ会場で再会してからここ数日間、会話したときのもの位だ。
……確かに、今になって考えてみれば、初めて目にした、CDを雑踏の中売らんと尽力する青年の姿と、どこか情緒不安定なここ数日間とで、微妙に印象が異なるような感じはするけれど。
しかし、ついさっき、俺たちを狙い撃った炎の槍は、紛れも無くエーテルリンクの魔法で。
天壌紅蓮と呼ばれる神位魔術師、フレア・ガランゾ・スプリングロードゥナと同じものだ。
そして、フィリオール先生の正体が地母神であった、ということは――
『その認識で間違っていません』
俺の思考が答えに到達したことを察したようで、天空神が短く告げる。
ディアナもまた、同じ結論に至ったらしい。相棒の声が重々しくその答えを呟く。
「……赤上様は、炎闘神アースガルズに、その肉体を奪われているのですね」
俺が辿り着いたのと、一言一句違わないその発言に対し、またも天空神は答えない。
そしてそれが、呟かれた言葉が正答であるということを、何より如実に表していた。




