異世界(の神様が地球に)転移①
――落ち着いたようですね。ようやく
「……うん」「お、お見苦しいところをお見せいたしました……」
気付けば辺り一面暗闇一色。普通の人間であれば取り乱してもおかしくない空間にいながら、たっぷり五分は取り乱し続けた俺とディアナは、冷ややかとも取れるその声に、互いに肩を落として答える。
どこか相棒に似た抑揚を持つその声は、どうやらエーテルリンクの天空神アーツのものらしいが……
「……どこにいんの? 気配が無いんだけど」
周囲は完全な闇だ。一点の光も無く、自分の姿さえも見えない。この状態では俺が目を凝らしたとしても魔素を捉えることも出来ないだろう。
けれど、隣にいるディアナのことは気配を感じる。
もし天空神が同じように、この空間の中俺たちの程近くに存在しているなら、それも気配で分かりそうなものなのだが。
――ふむ。では、もう少し表出させて頂くとしましょうか
「「っ!?」」
俺の問いに意味深なセリフを返したかと思うと、全身を硬直させるような威圧感が辺りを満たし……一瞬でその気配が小さくなる。
「い、まのは……」
一瞬とはいえ、緊張を強制される程の圧力を感じたディアナが、今なお強張った声音を漏らす。俺もまた、その気配には覚えがあった。つい数分前まで、サンファや赤上さんとの戦闘において、全身で感じ取っていた気配……神威の気配だ。
『これで聞き取りやすくなったでしょう?』
「あ、ああ……」
天空神の声が魔装形態時のディアナやリラのそれと同じく、彼方から響き渡るエコーのようなエフェクトを伴って脳内で響く。
それと同時に気付いた。今は放たれる圧力が弱まっているが、その気配が発されているのが俺自身の身体から、ということに。
『勝手ながら、挨拶も無しにお邪魔しております。魔晶に身を潜めたままでは、あの女性に捕えられる可能性が高かったので』
あの女性。天空神の呟いたその一言に、こんがらがった脳内で、一人の人物の姿が浮かび上がる。
フィリオール・グランディット。俺の通う高校の司書であり、かつて虐めを受けていた俺に逃げ場所を提供してくれた、恩ある女性教師――
一度、深呼吸した。整理が追い付かないままの情報郡を、一気に思考の片隅に押しやる。
そして、問うた。
「あの人は、フィリオール先生は……エーテルリンクの魔法使いで、俺たちの敵、なんだよな」
数秒の沈黙の後、屹然とした天空神の声が、それに答える。
『そうです。貴方がフィリオール・グランディットと呼ぶ女性。彼女のエーテルリンクにおける名は、地母神エルデアース。エーテルリンクの大地を司り、私と共に彼の世界を創造した神です』




