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独白⑳

ということは、ただならぬ事態であったとはいえ、マスターは先程までの私の言動を把握している……ということだ。


「ああああああ」


響心魔装(シンクロ・デバイス)……召喚者の従者として有り得ざる行い。

そして、未だかつて自分が経験したことの無い行い。


それらの行為を行ってしまったという二重の意味で、思わず頭を抱えて叫びたくなる。


な、何はともあれ謝罪しなくては。いや待て、こういう時は謝罪が適切なのだろうか? むしろ「ありがとうございます」と感謝の念を告げるべきなのか? ああ何故エーテルリンクでの学習要項には、「接吻後の相手に告げるべき言葉」が含まれていなかったのだ――!


と、脳内で一人、暴走気味に取り乱す私に、気恥ずかしさを滲ませるマスターの声が掛けられる。


「えー、と……最初に会った時に、こういうのは事前に許可を取ってからにしてくれって言ったけど……今回は非常事態だったからまあ、不問で。事故ってことで。ノーカンで」


怒涛の混乱で熱暴走染みていた私の頭に、ぽん、と優しく手が置かれる。

混乱した私を落ち着かせるための言葉だったのだろうが、何故か、胸の内がもやっとした。


ノーカンとは俗語で、ノーカウントの略だったか。数に含めない、という意味だった筈。


……何故だろう。なんだか、それは嫌な気がする。


「マスター。ではマスターの初体験(ファーストキス)は、先刻のフィリオール女史とのものがそれになるわけですね」


「……ん? んん!? いやいやいやアレこそ事故だろ! っていうか急にどうしたディアナ。なんで急にそんな話を――いや、そもそも俺の初キスかどうかなんてなんで知って」


「マスターの経歴や普段の振る舞いから察するに経験がおありとは思えません」


「……いやまあ、そこはその通りですけど、さ。いや、待って。何? 何が言いたいの?」


「あのような、相手の命を奪う悪逆非道の限りに満ちたモノ……それが初体験である事実は今更拭えません。が、どうせ遭遇してしまったのであれば、いっそ私とのキスもワンカウントに含め、そちらで上書きした方が良い思い出になるのではないでしょうか!?」


「なーに言っちゃってんのディアナさん!?」


「敬称はお止めください!! さ、先程の事態から数に含めるものではないとおっしゃるのであれば、いいいいま、あらためてさせていただいてもよいかとぞんじますともうしあげますけれども」


「分かった! お前知恵熱かなんかで正気じゃないな!? よーし落ち着け話はそれからだ!!」


――あの、痴話喧嘩はそのくらいに。こちらからも話がありますので


……どことも知れない空間であることなどまるで関係無いかのように、わいのわいのと騒ぎ立てる私たちを天空神がそう諫めたと聞いたのは、それからしばらくしてからのことだった。

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