表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

541/673

独白⑰

――彼女の心核汚染薬は特効性を持ちます。主と同種の心素(エナ)である貴方の心素干渉では、排除は望めません


『では、どうすれば……!』


――まずは、主の身体から出て下さい


差し迫った状況化にもかかわらず、淡々と告げる天空神にどこかやきもきとしながらも、私は指示に従った。無限の闇の世界の中、苦しみ呻く主の手を握る形で、マスターの身体から表出する。


――限定魔装(リミットデバイス)の用意を


「はい……次は?」


――主の胸に突き立て、素因排奪(ディスチャージ)を行って下さい


「っ!」


取り出した夜色の短剣を握る手が、その言葉を聞いた途端びくりと固まった。


――出来る筈です。エルデアースの神位魔術師を通し、貴方自身も行使した魔法ですから


そういう問題じゃない。その言葉が出てこなかった。

確かに出来るように思える。身体が覚えているのか、どのように魔法を発動させればいいのか、手順を把握しているのが分かる。


しかし……どうしてもその手段を取りたくなかった。

かつて、サンファ氏の強制力により、マスターを裏切った証であるその魔法を。


私のためらいが伝わったのか、どこか呆れたような声音が再び響く。


――では、別の手段で構いません


「べ、別の手段とは!?」


――主の心核を抜き取れれば、この際手段は問いません。直結より時間はかかるでしょうが、あの人と同じ経路で素因排脱を行って下さい


「あ、あの人と同じ……?」


それが誰のことを言っているのか、一瞬思いつかなかった。しかし、少し考えて、マスターに薬を飲みこませたフィリオール女史のことを指しているのだと思い当たる。


それと同じ手段ということは――


「え、え、え。で、ですが、それは、その。マスターの許可も無くそんな不敬ないえいやと言っているわけではなく、しかし私はあくまでマスターに仕える響心魔装(シンクロ・デバイス)ですからこれは私の手に余る判断と言いますか」


後から思い返すと、マスターの慌てふためく様子にそっくりだったのでは、と自分でも思う。一体誰に向けて何の言い訳をしているのだろうか。


すると、今度こそ呆れた様子を隠そうともしない声音が、ぴしゃりと言い放たれる。


――早急に。直結でないのですから、遅れれば後遺症が残る可能性もあります


冷水を浴びせられたかのように、右往左往していた思考がハッキリと正常に戻る。

そうだ。今マスターは生死の(きわ)にある。それを救えるのであれば、手段の如何など問うべきではない……それこそ、夜剣を突き刺しての直結手法をこそ採るべきなのだ。


しかし、それだけはしたくない。もう一度それを行ってしまえば、もう私はマスターの響心魔装だと名乗る資格が無くなる。そう感じる。


ならば、選択肢は一つしかない。


「しっ……失礼します、マスター!!」


意を決し、マスターの手を取っていた左手を話し、右手の夜剣を身の内に納める。


空になった両手でマスターの頬を包み、ぐい、と引き寄せ――唇を、重ねた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ