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それは私の残像ではなく相棒です⑫

胸の内側を流れる不快な熱に、思わず胸元を押さえ――そこにある筈のものが、無いことに気付く。


『オイガキッ!! 何やってやがるッ!!』


ハーシュノイズの叫びはもっともだ。フィリオール先生が右手に握っているものは、ついさっきまで繰り広げられていた、必死の戦闘を無にするものだったのだから。


天空神の潜んでいる魔晶が、握られていた。


たった今。強引に唇を重ねた時に、俺の懐から抜き取ったのだろう。

魔晶を奪い返そうと、右手に力を入れようとして、その右手が動いていないことに気が付いた。


……いつの間にか、俺の身体は七割近くが漆黒の闇に呑まれていた。


腰から下を呑み込んでいた闇は、気付かぬうちにゆっくりと俺の上半身をも侵し、その闇の内側に取り込んでいたのだ。もう肩の辺りまでが呑み込まれ、侵食がいよいよ首に及ぼうとしている。


全然、気付かなかった。いいや、俺が万一にも気付かないように、あんな突拍子もない振る舞いをして、混乱し続けるように仕向けたのか。


目を背けていた事実が、もう避けようのない眼前に存在する。

彼女たちが、地球における俺の日常の住人たちが、俺に敵対する存在なのだという事実が。


……なんなんだよ。

ずっとずっと、騙してたのかよ。


「――クッソおおおおぉぉぉっ!!」


プツン、と、頭の中で何かが切れたような音がした。

俺の全力の叫びに伴い、とっくに枯れ果てた筈の心素(エナ)がどこからともなく溢れ出し、首を侵食し始めていた闇に干渉する。


もうダメだ怒ったぞ!! 何が理由でこんなことをしてんのか知らねーけども!! いやサンファの親神を助けるんだっけ!? あーもうそんなのどうでもいいわ!!!


このままじゃ多分死ぬ。そうなったらどうなる?


行けなくなるだろうがっ……!


ルナちゃんの。アイリスの。ディアナのライブに!


「行けなくなる、だろうがぁぁぁぁぁ!!」


夜色の粒子が、残された俺の身体から吹き荒れる。バチバチとせめぎ合うスパーク音が鳴り響き、俺の身体を呑む闇が押し返される。徐々に、徐々に飲み込まれた俺の身体が、再び顔を覗かせる。


「おおーぅ、頑張るねぇ♪ で・も」


パチン。そう、フィリオール先生が指を一度鳴らしただけで。


「う、っそ、だ、ろ……!」


どうにか取り戻した胸が、肩が再び一瞬で闇に呑まれる。この暗闇を産み出し、操作しているのは、この人だった事実に今更ながらに気付く。


そのうえ、活を入れられた闇の浸食速度が当初の比ではない。

しかも、ダメ押しとばかりに、胸の内側で、ズクンと熱が脈打った。


「なん、だよ……今度は……」


思考が、意識が遠のいていく。ただでさえ混乱続きでまとまりが無かったってのに。

……さっき、飲まされた、何かのせい、か……


『マスター! しっかりしてください、マスター!』


胸の奥が痛い。相棒の決死の呼びかけに応える元気すら湧き上がらない。


闇に呑み込まれた身体の負った傷口が、闇への抵抗のときは何らに気にならなかった痛みが、再び全身を駆け巡り始めるのが分かる。


「それじゃあね、篠崎クン。もし縁があれば、また来世で会おうよ――多分無理だけどね♪」


「待――」


俺の言葉が言い切られるより早く、視界が黒一色に満たされた。

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