それは私の残像ではなく相棒です⑪
次から次へと何だってんだもういい加減にしてくれ!!
そう叫びたくなった俺を誰も責めはしないと思う。
敵なのがほぼ確だったクソイケメン魔術師の襲撃はともかく、顔見知りがそいつとグルっぽかったり、いきなり異世界の魔法使って襲ってきたり、何か意味深なこと言って混乱させてきたりして大混乱真っ最中だっていうのに! 更に下半身消して拘束ですかああそうですか!!
どこまで惑わせれば気が済むんだ。世話になった先生一人逃がすことすら許されないのか。
理不尽が畳みかけてくる。ヤケになって発狂しなかっただけマシじゃなかろうか――
久方ぶりの現実逃避で脳内がフル回転していると。
「ふっふ~ん♪ よっ」
「……はっ!?」
『くっ、う!?』
一瞬の瞬きの内に俺の視界が外界に露わになる。
夜色の仮面が、上半身を覆っていた夜色の鎧が、胸の上辺りから砕け散って吹き飛んだ。
それも、目の前の女性のデコピン一つで。
「先、生……?」
「はーいっ。みんなの人気者フィリル先生ですよ~?」
なん、だよ。その、緊張感の無さは。
ほんの少し前に、屋上で騒ぎを起こしてる不審者に叫んだ緊迫感は、どこ行ったんだよ。
命のやり取りをしていた屋上。その殺伐とした空気にとてもそぐわない満面の笑みを、フィリオール先生が向けてくる。
もう、何を優先して情報を取捨選択したらいいのか分からない。
「……ディアナ。ディアナ、大丈夫か」
『は、はい、ダメージは受けましたが、大事はありません……』
目まぐるしく移り変わる脳内の整理もままならない中、どうにか思いついた言葉を、内なる相棒に向けて告げる。その身である鎧を弾け飛ばされてしまった相棒だったが、大きなダメージではないようだった。
……その時は思い当たらなかったが、こんなに明らかな隙だったのに、何故かサンファも赤上さんも、このときの俺に攻撃してはこなかった。
いや、その時も分かってた。分かっていたのに自覚したくなかったんだ。
赤上さんはサンファの仲間で、ハーシュノイズを殺した張本人ってことを。
そして、目の前の女性も……かつて、クラスメイトたちから虐められていた俺に逃げ場所を提供してくれた、彼女も。
二人の、仲間で。俺たちの、敵なんだってことを。
「そーれーじゃーあー……巻き込まれた哀れで愚かなキミに、最期の餞別だ♪」
笑顔の女性司書は、茫然自失と見つめる俺の頬に両手を伸ばすと、
「……んむっ!?」
『あああっ!!? な、何をして!?』
「んふふー」
ぐい、と己の方に引き寄せて、その唇を奪った。
情緒もクソも無いその行いに、俺の脳内はもうパンク寸前だ。いや、もうすでに決壊していたかもしれない。必死に引き剥がそうともがくも、女性とは思えない尋常でない力で抑えつけられてびくともしない。
「や、め――んんんっ!?」
「……ぷはっ。飲んだ? 飲んだよね? よーしよしイイコだね~」
し、舌まで入れやがったこの痴女……ってそうじゃない。
今、舌を入れられた時、何かほの苦い液体を飲まされた。どこか喉に刺さるような、微妙に鼻に突く臭気を放つ濃度の高い液体を。
それを自覚した途端、液体が流れ落ちているであろう、胃の辺りが、いやな熱を帯びていることに気付く。




